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「19歳の藤井聡太五冠」のスゴさを棋士目線で説明すると… 「終盤で強い体幹」と事実上の「香落ち指し込み」とは《王将戦》

posted2022/02/16 11:00

 
「19歳の藤井聡太五冠」のスゴさを棋士目線で説明すると… 「終盤で強い体幹」と事実上の「香落ち指し込み」とは《王将戦》<Number Web> photograph by Kyodo News

19歳にして史上最年少の五冠を獲得した藤井聡太竜王

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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藤井聡太竜王(19)が渡辺明王将(37)を4連勝で破り、王将のタイトルを初めて獲得した。その結果、19歳6カ月の最年少記録で「五冠」を取得した。終局後の記者会見では「その立場に見合った実力がまだ足りないと思うので、実力をつける必要がある」と語り、相変わらず謙虚だ。藤井が渡辺に4連勝した結果を、田丸昇九段に棋士の視点から将棋の激動の歴史を踏まえて解説してもらった。【棋士の肩書は当時】

 第71期ALSOK杯王将戦七番勝負は、渡辺王将(名人・棋王を合わせて三冠)に藤井竜王(王位・叡王・棋聖を合わせて四冠)が挑戦した。三冠と四冠の対決は、まさに棋界の頂上決戦だった。

 渡辺は棋聖戦五番勝負(1日制・持ち時間は各4時間)で藤井に2年連続で敗退したが、王将戦(2日制・持ち時間は各8時間)は戦い慣れている舞台だ。王将戦で3連覇(通算5期)している実力を発揮するものと予想された。

 しかし、渡辺は激闘が繰り広げられた第1局と第3局の終盤の局面で、やっと得た勝機を逃して敗れたのが響いた。第4局も懸命に頑張ったが、中盤の勝負所の局面で疑問手を指し、勝負の悪い流れを食い止められなかった。

 藤井竜王は渡辺王将に4連勝し、王将のタイトルを初めて獲得した。19歳6カ月での「五冠」取得は、羽生善治九段が1993年に打ち立てた22歳10カ月の最年少記録を、3年以上も更新した。

渡辺名人「もうちょっと何とかしたかったんですけど…」

 渡辺は終局後、「残念というのもちょっと違うし……。もうちょっと何とかしたかったんですけど……」と語った。最善を尽くして指しているのに、藤井にどうしても勝てない無念さが表われている。せめて1勝して恒例の「勝利者コスプレ」をしたかった、という次元の話ではない。

 それにしても、現役最強で冬のタイトル戦に強いという意味から「魔王」や「冬将軍」の異名がある渡辺に対して、藤井がタイトルを初めて獲得した2020年の棋聖戦第4局に続き、2021年の初防衛戦の棋聖戦、今年の王将戦と、タイトル戦の対局で渡辺に8連勝したことに驚くばかりだ。対戦成績は藤井の12勝2敗となった。

 過去の例では、1950年代に大山康晴(十五世名人)が升田幸三(実力制第四代名人)にタイトル戦で何回も敗退を重ね、1970年代に加藤一二三(九段)が中原誠(十六世名人)に1勝20敗と大きく負け越した。昨年6月時点では、藤井が豊島将之(九段)に1勝7敗と負け越していた。

 しかしその後、大山、加藤、藤井は苦手を克服して「V字回復」を果たした。渡辺にもそれを期待したい。

【次ページ】 「体幹」の強さを感じる終盤力と攻防のバランス

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