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大阪国際で話題「男子選手が残り1kmまで先導していいのか?」…マラソン界でも議論が続く“ペースメーカー是非問題”
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph byAFLO
posted2022/02/06 17:15
大阪国際女子マラソン。残り1kmの30km付近まで男子ペースメーカーが先導したことが話題となった
この1年後、ウィーンで行われた非公認レースでは41人もの世界トップクラスの選手が交代でペースメーカーを務めた。42kmまでアシストされたキプチョゲは、42.195kmを1時間59分40秒で走破している。
両レースのタイム差は約2分。気象条件やコースが違うため、単純比較するわけにはいかないが、終盤までペースメーカーがつくことは選手にとって大きなアドバンテージになるようだ。
別名は“ラビット”「意外と知らない」ペースメーカー事情
ペースメーカーはマラソン関係者の間で「ラビット」と呼ばれ、30年以上前からレースを陰で支えてきた。日本では彼らに触れることがタブーとされてきたが、アテネ五輪(04年)の男子選考レースからその存在を公認したため、お茶の間にも知られるようになった。そもそもペースメーカーの役割はどんなものなのか。
参加選手が牽制し合ってスローペースにならないように、主に30kmまでレースを作るのが彼らのミッションだ。一定のペースでレースを先導するため、選手の負担を減らして、また選手の風よけにもなる。
走るペースについては、大会主催者と招待選手の意向、それから気象条件などを考慮して決定。走行中もレースディレクターがペースメーカーに指示を出すこともある。
ペースメーカーは選手と異なるカラーのゼッケン(「PACE」や「PACER」と表記されている)をつけている。今回の大阪国際女子マラソンでは主催者側が6人のペースメーカー(全員が日本人の男子選手)を用意。そのなかには2時間7分27秒の自己ベストを持ち、数々の大会でキャリアを積んできた川内優輝(あいおいニッセイ同和損害保険)もいた。
レース出場よりもペースメーカーを選ぶランナーも
また自分のレースよりもペースメーカーを喜んで引き受ける外国人選手は少なくない。ペースメーカーのギャラは数十万円が相場(なかには100万超えということもある)。ダメージが大きく、賞金を手にする可能性が不透明なマラソンで一攫千金を狙うよりも、ペースメーカーを多くこなすことで確実にマネーを手にすることができるからだ。
近年は国内レースで日本人選手がペースメーカーを務めることも増えている。その理由は、日本人選手はペースメイクが緻密なことと、日本人選手とコミュニケーションが容易にとれることが挙げられる。またペースメーカーを務める側も、報酬をもらいながらいずれ出場するコースを堂々と“試走”できるというメリットもある。