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八村塁の“休養”に考える代表選手のケアと育成年代への警鐘「バスケ以外のことをやったほうがいい」の真意とは?
text by
宮地陽子Yoko Miyaji
photograph byGetty Images
posted2022/02/01 11:01
長期離脱を経て復帰を果たした八村塁。報道陣の前で「戻ってこられてうれしい」と笑顔をのぞかせた
そういったデータをもとに、佐藤はバスケットボール協会に所属している立場ではありながらも、子供のうちに複数のスポーツを体験するメリットを語るようにしている。特に小学生のうちは、バスケットボールで使わないような動きを取り入れることを提案する。
「冗談半分で『僕はバスケットボール協会で働いている人間なので、子供たちにバスケットボール以外のことをやったほうがいいよって言うのはおかしいんですけれど』と言っているんですけれど、ただ、いろんなスポーツをやる環境がないにせよ、バスケットボールという枠組みの中でもできることがある。『たとえばミニバスだったら2時間練習するうちの1時間はバスケで、残りの1時間はいろんなスポーツ──鬼ごっこでも何でもいいけれど、そういったことをやるという方法はありますよね』という話をするんです」
実は、スポーツのシーズン制が当たり前のアメリカでも、最近は年間通してひとつのスポーツに特化する子供たちが増えてきている。たとえばバスケットボールのシーズン中は学校のチームに所属し、春から夏のオフシーズンに別のスポーツをやるのではなく、AAU(クラブチーム)に所属してバスケットボールを続け、シーズン中よりさらに多くの試合をこなす。
その理由のひとつとしては、AAUが大学のリクルートの場になっているということがあるのだが、理由が何にせよ、年間通してひとつのスポーツに特化する子供が増えたことで、メンタル的なバーンアウトや、以前なら大人にならないと出なかったような故障が増えたというデータもある。
「アメリカでそういった弊害が出てきたことで、早期特化のデメリットが証明されているわけじゃないですか。僕はその考え方を逆手にとって、もともといろんなスポーツがしにくい環境の日本で、もし考え方を少し変えて、いろんなスポーツをやったり、スポーツの枠組みのなかでいろんな運動体験をできるような環境を作ったら、ひょっとしたら、それは我々日本が持っている伸びしろかもしれませんよって言っています」
「バスケをやっていない時はのんびりしている」
選手が疲弊するのには、さまざまな要因がある。たとえばバスケットボールが生活のすべてになってしまっていることによる弊害もある。
八村のコメントを読んだ頃、佐藤は、NHKの『カムカムエヴリバディ』で気になるセリフを耳にした。
「コンテスト出場を躊躇しているトランペッターについて、ジャズバーのマスターが『あいつにはトランペットしかないから』と言っている場面がありました。つまりコンテストで負けてしまうと自分自身が負けてしまうことになるから、コンテストに出たくないのだというのです。そういうふうに、バスケットボール選手が自分の価値を試合結果やSNSのコメントだけで測ってほしくないんです」
日本代表の選手たちに、自分からバスケットボールを引いたら何が残るかと問いかけてみたこともある。
「普通に自分の名前を言った選手もいたし、あとは『バスケットは好きだけれど、バスケットやってない時はのんびりしている』と言う選手もいました。明確な答えはなかったけれど、僕、そこが大切だと思っているんです」
そうやって問いかけることで、選手たちが何か考えるきっかけになればいいと思っていると、佐藤は言う。
「僕らがコーチとして、大人として、子供なり選手なり、人を導くときに、バスケットボールの現場にいても、『○○-バスケットボール=△△』の、イコールの反対側にあるものを見失っちゃいけないと思うんです。自分からバスケットボールを差し引いたときに何が残るか。そういうところを意識したコーチングとか人のサポートを意識すると、選手とか子供たちがイキイキとしていくんじゃないかなぁって」