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《アブダビGP徹底検証》フェルスタッペンの逆転劇を生んだレースディレクションの正当性…セーフティーカー本来の役割とは?
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2022/01/28 06:00
最終ラップまでレースを支配しながら勝利を逃したハミルトンだが、紳士的な態度でフェルスタッペンを讃えた
レース終了後、メルセデスは正式にスチュワード(審査委員会)にレースの再開手順について抗議。しかし、スチュワードはメルセデスの抗議を棄却した。
確かに競技規則の第48条12項には「リーダーに周回遅れにされた車両は、リードラップの車両とSCをパスすることが求められる」「周回遅れの最後の車両がリーダーをパスした後、SCはその次の周の終わりにピットに戻る」と記されている。
一方で、第15条3項には「レースディレクターがSCの利用をコントロールすることが許されている」とも明記されており、スチュワードはSCの出動と撤退もそれに含まれると判断した。
さらに第48条13項には「SCがこの周に入る」という表示が出た場合、その周の終わりでSCを撤収させる義務があるという規定がある。今回スチュワードは、第48条12項が施行されなかったのは第48条13項が優先されたためと裁定。マシの判断はレギュレーション違反には当たらないとし、メルセデスの抗議を棄却した。
セーフティーカーの役割とは
とはいえ、レースが混乱した事実は否定できない。なぜ、今回このような事態が起きたのか。その最大の要因は、SCの導入である。
F1において初めてSCが導入されたレースとなったのは、73年のカナダGPだった。このレースでも大混乱が起きた。ウェットコンディションでスタートしたレースはその後、事故が多発。ただし、このときは現在のようなSCではなく、雨の中、安全に走行できるよう速度を落とすためのペースカーが出動した。しかし、ペースカーがトップのマシンを見誤ったためにレースは大混乱となり、レース終了後、勝者を確定するまでに数時間を要することとなった。
現在のような形でSCがレースに正式導入されたのは93年。その目的はレースで事故が発生した際、あるいは天候が悪化している状態でコース上の安全性を高めながら、レース車両を走行させるためだ。