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「ヨーロッパの人も見習ったほうがいい」フェルスタッペンも認める、ホンダを成功に導いた日本特有の“集団主義”とは
posted2022/02/11 11:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
30年ぶりにホンダが頂点に立ったF1では、日本の企業文化や日本人が持つ欧米人とは違ったメンタルがいまあらためて見直されている。
ホンダがレッドブルにパワーユニットを供給するようになった19年、初めて日本人とレースを戦うことになったマックス・フェルスタッペンは、ホンダに対する印象を次のように語っていた。
「彼らが何を考え、僕に何を期待していたのかわからなかったから、彼らとどう接すればいいのか、正直ちょっと戸惑っていた」
しかし、それは杞憂に終わった。
「彼らはあまりしゃべらず、おとなしいけれど、それは常に仕事に集中しているからだった。初めてサクラ(HRD Sakura/ホンダF1の日本における開発拠点)に行ったときのことは忘れもしない。何人かのエンジニアに尋ねてみたけど、こちらの質問に対してすべて的確に完璧な答えを返してくれた」
個人主義が強い欧米では、組織が細分化されているケースが多い。したがって、エンジニアたちも自分が担当している分野の専門領域に非常に特化した技術を開発しているが、それ以外の分野になるとまったく知らないというケースが少なくないという。そのため、同じ組織であっても個人同士が自分の主張をぶつけ合うことが珍しくなく、結果的に個性の強いスタッフをまとめるために強いリーダーが必要となる。
欧米のチームや企業が分業制を発達させているのに対して、ホンダに代表されるように日本企業は、個人の主張よりも組織の利益を優先させる集団主義を尊ぶ傾向が強い。
集団主義における課題
ホンダも情報は全員で共有し、全員が全体を考えて動き、組織にとって最適な方法は何かを考えながら開発している。そのいい例が、HRD Sakuraの開発スタッフと現場スタッフを定期的に入れ替えるローテーションだ。例えば、HRD Sakuraが担う作業のひとつに信頼性・耐久性をチェックするベンチテストがある。欧米であれば、ベンチテストを行うスタッフはその道何十年のベテランなのだろうが、ホンダは現場を担当していたスタッフがこの部署で仕事していたケースもあった。現場を知っているスタッフだからこそ、現場に近い環境でパワーユニットを走らせることができ、それがひいては真の信頼性向上につながるというわけだ。