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中村俊輔「闘莉王のヘディング技術には驚いた」「久保建英は凄い」稀代の名キッカーが思い描く“日本代表とセットプレーの未来”
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byNaoya Sanuki
posted2022/01/26 17:01
セリエAレッジーナ時代、フリーキックの個人練習に励む中村俊輔
其の三 日本代表とセットプレーの未来
セットプレーでも同じ1点であることに変わりはない。むしろセットプレーだからこそ与えるダメージもある。
日本代表においてセットプレーに対する依存度が下がっているのは、時代の流れからなのか、それともチームとしてのデザイン力やキッカーとターゲットマンの関係性に拠るものなのか。
中村俊輔が考えるセットプレーの効果と向上策とは、そして日本代表がワールドカップでベスト8以上に進んでいくために必要なこととは――。
セットプレーには流れを変える力があると思っている。
Jリーグでの話になるが、反町康治監督時代の松本山雅と曺貴裁監督時代の湘南ベルマーレにそれを強く感じた。
自分たちのチームがいくら優勢であっても、彼らがセットプレーのチャンスを得るとそれまで劣勢だったのに一気に勢いづく。こちらとしても足を止めることになるから、優勢の流れが一旦ゼロに戻るような感覚。向こうのセットプレーがたとえうまくいかなかったとしても、「練習してきたものを出したぞ」的なポジティブな雰囲気になるし、逆にこちらは「芸を見せつけられた」的なネガティブな雰囲気にもなる。
セットプレーは味方に対してのメッセージにもなる。これは名古屋グランパス時代のピクシー(ストイコビッチ)を見て学んだこと。リードしているのにセットプレーとなると、敢えて走ってボールを取りに行ってボールをセットする。
もう1点行くぞという姿勢、そしてチームメイトに「頭を止めるな」という意味もあったと思う。時間が一度止まることで、やらなきゃいけないことをチーム全体で共有できる。攻めるほうも、逆に守るほうも。だからこそしっかり守っていたのにセットプレーから点を奪われてしまうとダメージも大きい。あれだけ攻め続けて、あの1本でやられてしまったとなると尾を引くことにもなりかねない。
今夏のEUROで優勝したイタリアはやはりセットプレーでも強かった。決勝ではCKからボヌッチが同点ゴールを決めている。逆に守備ではやられていない。「流れ」重視の現代サッカーではあっても、セットプレーが勝敗を左右するケースは多々ある。
セットプレーの質を上げていくために、トレーニングセッションのなかでどう落とし込んでいけばいいか。
セットプレーのことをずっと考えてきた一人として言うなら、全体練習のほかに3対3など少ない人数でやっていくのも面白いのかなとは感じる。ボール回しの練習があるのであれば、セットプレーバージョンがあってもいい。マークをつけて決められた幅のなかで攻撃側はどうゴールにつなげられるか、守備側はどう守るか。キッカーとの信頼関係や責任感を植えつけていくには、あってもいいのではないかというのが個人的な感想だ。