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藤井聡太竜王19歳「キノコは以前より食べられるように…」“少しでも前進している感覚で”と語る藤井竜王の「常識に囚われない一手」
text by
寺島史彦(Number編集部)Fumihiko Terashima
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/01/20 17:03
王将戦前日の記者会見。「一手一手自分なりにしっかり考えていい内容にしていきたい」と語った。
金は守りの駒であることが常識だ。彼はそれに囚われることなく、玉から金を離したうえ、じき優勢を築きあげ、勝利を収めた。勝負の世界に身を置きながら、自らの手で常識の範囲を広げていくことを楽しんでいるようにさえ映る。AIの評価値を跳ね上げる「わかりやすい」一手ではないかもしれないが、彼が将棋界において最高位に立っている理由を示す「最強の一手」だろう。
将棋の歴史とは、勝負師たちが一手一手を指し継ぎ、時代の常識を塗り替えてきた歴史だ。現代の棋界の先頭を走る藤井竜王が大舞台で突き出した歩も、常識から一歩でも前進しようという一手だった。藤井将棋にファンが魅了される理由は、絶妙手を出現させる驚異の終盤力だけでなく、定跡や習慣に囚われることなく将棋をアップデートしていこうとする姿勢にもあるはずだ。
そして将棋は対戦相手の存在なしでは語り得ない。最強の19歳を凌駕しようと立ち向かっていく数多の棋士の姿にもまた、心打たれる。その繰り返しで将棋は今日も更新されていく。将棋界全体を前進させていく存在、それが藤井聡太という棋士なのだと思う。
最終盤まで先の読めなかった王将戦第1局は、最後の最後に挑戦者である藤井竜王が、渡辺玉を詰まし、熱戦を制した。投了図の8六の位置にはあの歩が燦然と輝いていた。
Number最新号「藤井聡太と最強の一手」では、藤井将棋の真髄に触れる、大川慎太郎さんによる竜王戦第4局ドキュメント「名局を決した幻の歩」、勝又清和七段による解説「竜王を手繰り寄せた“異常”な終盤」なども掲載しています。