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勝ったのはアントニオ猪木だけ? 梶原一騎『タイガーマスク』実在レスラー登場シーンを再検証、“最後の相手”ドリー本人が驚く結末
text by
高木圭介Keisuke Takagi
photograph byMoritsuna Kimura/AFLO
posted2022/01/21 11:00
1981年4月23日、初代タイガーマスクの“衝撃のデビュー戦”vs.D・キッド。漫画・アニメで人気を博したヒーローが現実のリングに上がった
一方、漫画版における「虎の穴壊滅」は最終話よりもかなり前。当時の日本プロレス版アベンジャーズといったワンダーな展開が見られる。
虎の穴本部へと誘拐された、ちびっ子ハウスの健太少年を追って、タイガーが単身、スイス山中の本部へと乗り込む。タイガーの異変を察知した馬場は、米国から帰国途中の上田馬之助(まだ金髪ではない)に命じて、タイガーを尾行させつつ、それまで謎とされた虎の穴本部の場所を特定するに至る。
そしてピンチとなったタイガーを救ったのが、それぞれがタイガーマスクに変身した馬場(のっぽのタイガー)、猪木(スマートなタイガー)、大木金太郎(ごっついタイガー)、吉村道明、上田馬之助、グレート小鹿の6選手だった。本物も合わせた「七人のタイガー」が力を合わせ、虎の穴本部でゴリラや豹、黒豹とまでバトルを繰り広げ、ついには組織を壊滅させるという凄まじいストーリーだ。
のちの日本プロレス崩壊後の人間関係やら、選手個々のキャラクター変化を考えると、とても信じられない内容だ。また平成のマット界でコスプレ姿を披露しまくった猪木や小鹿は、この虎の穴壊滅時こそがコスプレの原点だったのかも知れない。
外国人レスラーたちの扱い
一方、実在の外国人レスラーは、ショッカーの改造人間が如き異形や戦闘力を誇る悪役レスラーたちの前に、とかく雑魚キャラにされがちでもあった。後の活躍ぶりを考慮して、とくに酷い扱いを受けていたと思われるのは、漫画版やアニメ版初期に登場したジャック・ブリスコだ。黄色い悪魔時代のタイガーのバケツによるドロップキック被弾のダメージにより、ブリスコは引退を余儀なくされ、車イス生活を送っている。連載&アニメ版の終了から2年も経たない73年7月には、第48代NWA世界ヘビー級王者となり、一時代を築いているというのに……。
逆のパターンもある。連載終了直後の昭和47年1月に初来日(日本プロレス)するも、鳴かず飛ばずで終わってしまったミル・マスカラスの実弟、エル・シコデリコ(劇中ではエル・サイケデリコと表記)は、虎の穴出身という出自から、つい反則の癖が出てしまい、スランプに陥るタイガーに、兄のマスカラスがドリー・ファンクJr.(NWA)やバーン・ガニア(AWA)ら時の世界王者たちと互角の正統派テクニックを持ちながらも、世界王者になれない理由を挙げつつ「あまりに不自然に反則にこだわり、ぎくしゃくした試合運びはあんたの大成の敵だ」なんて熱い言葉をかけ、正統派でも反則でも強くあれという「プロレス開眼」のきっかけを与える重要なキーマンとして登場している。
数年後の日本での人気、活躍ぶりを考えるならば、このキーマンの役割はテリー・ファンクこそが最適だったと思うのだが、どうだろうか? すでに昭和45年7月に初来日を果たしているテリーだが、まだ梶原御大の目に止まるほどの個性は発揮できていなかったのが残念。