濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER

「ここまでやらなきゃ勝てない」中野たむとの死闘…スターダム新王者・上谷沙弥と“狂気と全力”のフェニックス・スプラッシュ 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

PROFILE

photograph byNorihiro Hashimoto

posted2022/01/06 17:01

「ここまでやらなきゃ勝てない」中野たむとの死闘…スターダム新王者・上谷沙弥と“狂気と全力”のフェニックス・スプラッシュ<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

2021年12月29日のスターダム両国大会にて、中野たむを破りワンダー・オブ・スターダム王者となった上谷沙弥

「これ以上は危なすぎる」たむの頭から“ゴツッ!”

 勝つためには“上谷ワールド”にたむを引きずり込まなくてはいけない。では自分らしい試合とはなんだろう。上谷はたむの“呪い”に“狂気”で対抗することにした。

 自分のことを「感情人間」だと上谷。気持ちの起伏が激しく、天然なところもあり、何をしでかすか分からないと周りから言われる。一方で運動能力が高く、飛び技が得意。危険を顧みない無鉄砲さもある。

「狂気を技という形で出す」

 そう決めて臨んだ国技館でのタイトルマッチ。上谷は“技”で観客をどよめかせ続けた。

 ロープに飛び乗って放つスワンダイブ式のプランチャは、場外マットを越えたところで決まった。エプロンの攻防ではフランケンシュタイナーで自分の体ごとたむを場外に投げ捨てる。リング内では雪崩式のリバース・フランケンシュタイナー。たむは後ろ向きのままマットに突き刺さった。

 プランチャを受けたたむが場外フロアに頭を打つ「ゴツッ」という音も聞こえた。これはアクシデントだったが、いずれにせよ「これ以上は危なすぎる」と思ってしまうほどのギリギリの攻撃が多かった。

「中野たむの世界観にもっていかれないようにと常に考えてました。ぶっ飛んでないとできない技を出しましたよね。それは中野たむという相手だったからです。ここまでやらなきゃ勝てないという気持ちだったし、すべてを出せたし、そこには信頼もありました」

 ここまでなら、あるいはここまでやっても、たむなら受け切れる。そう信じての攻撃でもあったのだ。

自分でも「怖い」フェニックス・スプラッシュ

 試合の中で上谷がエルボー、たむが顔面蹴りを打ち合う場面もあった。“呪いのベルト”を奪い合うにふさわしい、感情のこもった打撃戦。しかし今回に関しては、それ以上に“技”のインパクトが強かった。たむはリング内でもフランケンシュタイナーを食らいながら、綺麗なブリッジでフォールを回避。その鮮やかさに観客は沸いた。その時点で技と動きで魅了する闘い=上谷ワールドになっていたということでもあるだろう。

 終盤、上谷は角度のキツいバックドロップホールド、必殺技の一つスター・クラッシャーを決める。トドメの一撃はフェニックス・スプラッシュしかない。

 しかし、である。フェニックス・スプラッシュは背中向きにコーナーに登り、身体をひねりながら1回転以上、450°回って相手にダイブするものだ。そんな高難度の技をフィニッシュで使うというのは、疲労とダメージの極致の中で飛ぶことにほかならない。

 華麗なフィニッシュと失敗は紙一重。2021年のG1クライマックス決勝では、飯伏がこの技を“自爆”して肩を負傷、レフェリーストップで敗れている。

「G1の決勝で飯伏さんがケガをするところは、生で見ていました。怖かったし、この技のリスクもあらためて感じました。トラウマじゃないですけど“自分がやっていい技なのかな”って考えてしまいましたね。

 でもやっぱりフェニックス・スプラッシュは自分の最大の武器。すべてを出さないと白いベルトは獲れないというのも分かってました。なんて言ったらいいんでしょうね……確かに失敗したら自分に凄いダメージがあるし、ケガをするかもしれないんです。でも、そのことに関してはいざとなったら躊躇がないというか(笑)。実際、私は飛び技を多く使うわりにはケガもないですし。危機回避能力っていうんですかね、そういう感覚は高い気がします」

【次ページ】 「アイドル時代は努力しても報われなかった。でも…」

BACK 1 2 3 NEXT
#スターダム
#中野たむ
#上谷沙弥

プロレスの前後の記事

ページトップ