濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「ここまでやらなきゃ勝てない」中野たむとの死闘…スターダム新王者・上谷沙弥と“狂気と全力”のフェニックス・スプラッシュ
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/01/06 17:01
2021年12月29日のスターダム両国大会にて、中野たむを破りワンダー・オブ・スターダム王者となった上谷沙弥
「アイドル時代は努力しても報われなかった。でも…」
新チャンピオンになった上谷の腰にベルトを巻いたのはたむだった。さらに手を挙げて勝者を讃える。プロレスをやらないかと誘った時から、いつかこの日が来ると思っていた。「今はまだ負けられない」、そんな気持ちで闘ってきたが、大事な大事なベルトを奪われてみると、さらに闘志が湧くのも感じたとたむは言う。
「ベルトの呪いを解きました」とは試合後の上谷のコメント。これからはワンダー王座を「全力のベルト」にしていきたいと試合後のインタビュースペースで語っている。
「アイドル時代は努力しても報われなかった。でもプロレスは努力をすれば必ず報われる。私は不器用で、目の前のことしかできない。目の前のプロレスを全力で頑張っていきたいです」
努力は必ず報われる。AKB48の初代総監督、高橋みなみの“名言”だ。総選挙でそう語る姿を見た人も多いだろう。だがバイトAKBなどアイドルとして芽が出なかった上谷は、その言葉を「本当かな。報われてないじゃん、私」という思いで聞いていた。
上谷にとってフェニックス・スプラッシュが価値がある理由
子供時代から打ち込んだストリートダンスでは世界大会に出場。EXILEのバックダンサーとして東京ドームのステージにも立った。だがその実力、ダンスに費やした努力はアイドルとしての評価につながらない。グループの中でいいポジションがもらえない。
「努力しても報われなくて、努力することが怖くなってました。全力を出すこともできなくなって。努力が結果につながるわけじゃないんだと思ってしまったんです」
だがプロレスでは違った。努力すればした分だけ認められる、結果が出る。フェニックス・スプラッシュも、努力して身につけた技だから価値がある。
「実力があるのはもちろん素晴らしいんですけど、それ以前に無我夢中で、全力で何かをやっている人が素敵だと思います」
どんなチャレンジャーと闘っていきたいかと聞くと「まっすぐな人に挑戦してきてほしいです」。スターダムに限らず、プロレスの世界は一癖も二癖もある個性的な選手が多い。
その中にいると「まっすぐ」な選手は埋もれがちにもなる。でも上谷は、まっすぐに努力することが最も大事なのだと信じている。それをタイトルマッチで証明したいということだろう。
「どちらのフェニックスが最強か、勝負していただけませんか?」
年が明けて1月5日、上谷は新日本プロレス東京ドーム大会のリングに上がった。スターダム提供試合はこれまで本戦開始前の「第0試合」だったが、反響が大きかったからか、この日は本戦第2試合。注目度がさらに上がった中で、上谷はまたしても「不死鳥の舞い」を披露する。
試合後には「憧れの存在」である飯伏幸太とのシングルマッチをアピールした。
「どちらのフェニックスが最強か、勝負していただけませんか?」
狂っていて、なおかつまっすぐ。“上谷ワールド”は、今年さらに多くのファンを魅了することだろう。
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