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「ここまでやらなきゃ勝てない」中野たむとの死闘…スターダム新王者・上谷沙弥と“狂気と全力”のフェニックス・スプラッシュ
posted2022/01/06 17:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
“呪い”を超えたのは“狂気と全力”だった。
スターダム年末のビッグイベント、12月29日の両国国技館大会では、団体のシングル2大王座がともに移動。“赤いベルト”ワールド・オブ・スターダムは朱里が林下詩美のV10を阻止し、“白いベルト”も新チャンピオンの手に渡った。中野たむを下したのは上谷沙弥。デビュー3年目の新鋭だ。
フェニックス・スプラッシュで始まった2021年
上谷にとって、2021年は飛躍の年となった。新年早々、新日本プロレスの東京ドーム大会にスターダム提供試合で登場。フェニックス・スプラッシュを決めて勝利した。新日本の飯伏幸太も得意とする、難易度の高い飛び技だ。
3月は日本武道館大会で林下に挑戦。敗れたものの高い評価を得た。6月、シンデレラ・トーナメントに優勝。9月には新日本のメットライフドーム大会にも参戦し、またしてもフェニックス・スプラッシュで勝利している。
そして12月29日の“白いベルト”戦。たむの王座に挑むのは、これが2度目だった。上谷はアイドル出身。元「バイトAKB」のメンバーで、プロレス入りもスターダムが手がけたアイドルグループに所属したのがきっかけだった。
そのグループでGMを務めていたのが、やはりアイドルからプロレスに挑戦したたむ。上谷はたむに誘われたこともあってプロレスを始めた。だから白いベルト初挑戦時、上谷は「師匠超え」をテーマに掲げている。
しかし結果は敗北。「師匠に勝ちたい」では、最初から自分を下に置いてしまっていると気づいた。もう一つの敗因は“たむワールド”に乗ってしまったことだ。
たむにとって白いベルトは“呪いのベルト”
たむは3月の武道館大会でジュリアからベルトを奪った。この試合は因縁の決着戦、敗者髪切りマッチとして行なわれている。
チャンピオンとして、たむは白いベルトを“呪いのベルト”だと表現した。赤いベルトは実力最高峰の証。対して白いベルトは対戦する者の感情とドラマを重視するというのだ。
初防衛戦の相手は、同じアクトレスガールズでデビューしたなつぽい。軽快な動き、空中殺法が得意ななつぽいだが、たむとの試合では感情むき出し。泣きながら張り手を見舞っていった。
たむは張り手、ビンタを一番感情が伝わる攻撃だという。メチャクチャに殴るし、殴られる。嫉妬や憎悪、あるいは怨念。自分の醜い感情にも向き合って、さらけ出すのが“呪いのベルト”の闘いだと。
前回の上谷も、たむをこれでもかと張った。何かに取り憑かれたようだった。それはそれで充実した闘いだったが、同時にたむの土俵でもあった。