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草野球の聖地「外苑」に異変あり! 草野球人のもとへ戻った軟式球場に迫る再開発計画とは《そもそもなぜ聖地?》
text by
田澤健一郎Kenichiro Tazawa
photograph byJIJI PHOTO
posted2022/01/08 06:00
2020年4月に空撮された国立競技場と神宮外苑周辺。画面右側の草野球の聖地「外苑」は茶色い陸上トラックにとって代わられていた
「練習といってもアップや軽い内野ノックくらいだけどね。とはいえスター選手も普通に練習しているから最初は驚いた。コブシの隣の大銀杏や桜で外野を守っていると、本当にすぐ後ろにいるんだもん」(Yさん)
「プロなんだから練習も神宮球場を使えばいいのでは」と思う人もいるかもしれないが、神宮球場はもともと学生野球で使用されていた野球場。所有するのは草野球場と同じ宗教法人明治神宮である。東京六大学リーグや東都大学リーグの公式戦開催中は学生野球優先でプロは使えない。そんなわけでスワローズおよび対戦チームは、致し方なくオッサンたちが草野球に勤しむグラウンドのそばで練習するハメになっているのだ。
「ある意味、日本で一番、ファンがプロ野球選手に接近できる場所かもしれない。規制線もなく、ただパイロンが置いてあるだけなんだから。今の時代、珍しいよね(笑)」(Fさん)
試合中にプロ選手から指示が…
60歳を超えた今も外苑で草野球を楽しんでいるWさんは、昔、スワローズの選手から守備の指示を受けたことがあるという。
「僕は外野が苦手で、年をとってからはフライを追いかけるのも大変。ある試合でフライの落下点がわからずフラフラしていたら、選手たちから『もっと前! 前!』って声が飛んできたんですよ。指示に従ったら無事、キャッチできました。さすがプロ野球選手ですよね。当たり前ですけど(笑)」
なんとも微笑ましいエピソードだが、それは希有な例。複数の人に聞くと、ヤクルトの選手とのコミュニケーションはないのが普通のようだ。だとしても、こんな至近距離で規制線もなく接近しているのに、よくトラブルや事件が起きなかったものだと思ってしまう。それは都心のど真ん中という立地ならでは、なのかもしれない。外苑の常連チームの選手たちはプロ野球選手がいてもイチイチ騒ぎ立てない。それは芸能人とすれ違っても見て見ぬふりをする都心の高級住宅街のごとく……。
「というか、こっちは試合中だから野球に集中してんだよ! 打球を追いかけているとパイロンと選手たちがジャマに感じるときもあるくらい(笑)」(Yさん)
草野球とはいえみなさん野球人。失礼しました。