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「最終決戦で和牛ではなく、とろサーモンに投票した理由は…」M-1審査員6回の渡辺正行に聞く“大会史上最高の漫才”
text by
澤田将太Shota Sawada
photograph byYuki Suenaga
posted2021/12/18 17:00
M-1グランプリの審査員を過去に6回担当した渡辺正行。関東の芸人にとってはまさに“リーダー”的な存在だ
渡辺正行が選ぶM-1史上最高の漫才とは
他にも数々の賞レースの審査員を務める渡辺。百戦錬磨と呼ぶに相応しい経歴の持ち主だが、それでも『M-1グランプリ』の審査は難しいという。
「他の賞レースだと全組見てから一番良かった組を選ぶことが多いんですけど、M-1って一組ごとに採点するじゃないですか? あれが難しいんですよ。最初に良い点をつけちゃうと、そこが基準になるから後がどんどん苦しくなる。『あの組が90点だからこの組は92点くらいかな? でもそうなるとその前のコンビは……』ってもう大変(笑)。でも最終的に見返すと、面白かったコンビの点数が低いことは意外とないものなんですよね。
他の審査員の採点は気になります。点数を入力するときって周りが見えないんです。だから一人ずつ点数が発表されるあの時間は、審査される側だけじゃなくて僕たちも意外と緊張してますよ。みんなとズレがあったらどうしようって(笑)。でも点数の差が出るのは、好みもこだわりもあるので仕方ないですよね。視聴者の方がそこに異論を唱えるのも、正しいM-1グランプリの楽しみ方のひとつだと思います。
僕はオール巨人さんの隣になる機会が多かったんですが、CM中はけっこう会話してましたね。さっきのコンビがどうだったとか、展開が斬新だったねとかそういう話。新しい学びもありますし、答え合わせにもなるのですごく勉強になった。審査員同士でM-1について話す機会はあまりありませんが、ほかの方々の持論も聞いてみたいですよね」
生の大会を6度見守ってきた渡辺に、印象に残った漫才を聞いてみた。間髪入れずに答えたのは、2009年大会で笑い飯が披露した『鳥人』。笑い飯が優勝を果たす前年の1本目で、当時審査委員長を務めていた島田紳助氏が、大会史上唯一100点を出した漫才だ。
「あの漫才は本当に面白かった。以前から決勝の常連になっていた笑い飯は、ダブルボケというスタイルを浸透させました。前から十分に面白かったのですが、『鳥人』ではその完成形を見たと感じました。鳥と人が一体になったファンタジーな世界観と、お互いのボケが織り成していく感じがバチっとハマっていましたね。漫才は結局のところ人ですから、笑い飯がずっとスタイルを崩さずに戦ってきた背景も含めて、スゴみになっていたと思います」