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23歳青年オーナーは“没落のプレミア常連クラブ”を復活させられるか 就任10カ月で次々と打ち出す改革とは《Netflixでも特集》 

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三重野翔大

三重野翔大Shodai Mieno

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photograph byJustin Setterfield/Getty Images

posted2021/12/12 17:01

23歳青年オーナーは“没落のプレミア常連クラブ”を復活させられるか 就任10カ月で次々と打ち出す改革とは《Netflixでも特集》<Number Web> photograph by Justin Setterfield/Getty Images

20代にしてオーナー業を経験するドレフュス。どんな人生を歩むのか

 冬のマーケット最終日に何としてもストライカーが欲しいとあちこちに電話を掛けた挙句、27歳のウィル・グリッグを大幅な予算オーバーで獲得したドナルド前会長時代から大きく進歩している。

 補強路線の照準を若手に合わせれば、もちろんアカデミーの活性化にもなる。ドレフュスはかつてジョーダン・ヘンダーソン(現リバプール)やジョーダン・ピックフォード(現エバートン)らを輩出したサンダーランドのアカデミーを高く評価している。

 経験のある選手をかき集めて目先の昇格を掴んだとしても、その先には世代交代という厳しい壁が待っているだけ。アカデミーとトップチームとの連携をより強める方針は、ドレフュスの言葉通り「長期的」なプランなのだ。

宿敵ニューカッスルと立場が正反対だった時代

 隣町のニューカッスルは一夜にして世界最高の “金満クラブ”へと変貌した。しかしかつて二者の立場が正反対だったことがある。

 1950年代、サンダーランドは巨額の移籍金を投じて選手を次々と獲得し、他クラブのファンから「The Bank of England club (イングランド銀行クラブ)」と揶揄されていた。

 かたやニューカッスルは1部に復帰したばかり。トップカテゴリーでの戦い方を模索している最中だ。

 しかし5年間で3回のFAカップ優勝を成し遂げたのはニューカッスルのほうだった。その後サンダーランドは多額の支出による財務スキャンダル、チームの内部分裂などにより崩壊し、トロフィーを獲ることすら叶わなかったのだ。

 お金が全てを保証してくれるわけではない。

 この教訓の先駆けとなったクラブにとって、同じ過ちは断じて許されない。そして幸運にも今、近年で最高のオーナーとともに、サンダーランドは夜明けを待っている。かつてオリンピック・マルセイユに魅せられ、自身も選手を志したドレフュスは、フットボールをアメリカ人実業家のように金儲けのビジネスとは捉えない。

我々は「ファンのクラブ」を作る

『サンダーランドこそ我が人生』で当時エグゼクティブディレクターのチャーリー・メズヴェンが、ファンに向けて語った言葉が残っている。

「我々は“ファンのクラブ”を作る。金持ちの財布に依存すると彼のクラブになる。その時点からファンは無意味になるんだ」

 労働者階級が多い都市で、フットボールこそ我が人生と感じているファンが圧倒的に多いサンダーランド。

 彼らにとっては一夜にしてクラブが生まれ変わるよりも、アカデミーで育った地元の選手が成長し、ファンの後押しを受けて徐々に強くなって、その選手たちでプレミアリーグに戻るほうがいいのだ。ドレフュスのやり方はサンダーランドの風土によく合っているのではないだろうか。

 18日に誕生日を迎えるドレフュスは、それでもまだ24歳。この青年オーナー、本気で名門復活を目論んでいる。<前編から続く>

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“異常な殺気のダービー”宿敵は46兆円資産で金満化の一方で… “どん底の元プレミア常連クラブ”23歳オーナーの「知的な」経歴とは

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