濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
芸能界で苦しんだ“女優レスラー”青野未来がリングで見つけた輝き方「今やっと、プロレスが“武器”になった」《特別グラビア》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/12/12 06:00
女優によるプロレス団体アクトレスガールズの青野未来。
「アイスリボンは体の大きい選手も多いですし、技や動きが独創的で勉強になりました。何より刺激になったのは、試合をしながら凄く楽しそうなんですよ。特に藤本つかさ選手からそれを感じました。“プロレスはこんなに楽しいんだ、楽しんでいいんだ”って」
もともと感情を表に出すタイプではない。映画や舞台は台本があり役があるのだがプロレスは青野未来本人としての“表現”だ。喜怒哀楽、自分をさらけ出すのは得意ではなく、ただただ必死。「技を失敗したらどうしよう」といつも思っていた。よく言われる言葉は「もったいないね」、「惜しいね」だった。だが試合を楽しめるようになると、周りからも「最近、リングでよく笑うね」と言われた。それだけの経験と自信が持てたのだ。
タイトルマッチでの“ギブアップ負け”が最大の転機
最大の転機は、昨年から今年にかけて行なわれた初代タッグ王座決定トーナメントだ。KKMKでエントリーした青野だが、決勝で本間多恵と尾崎妹加(フリー)の一期生タッグに敗れてしまう。
「絶対に初代王者になりたかった。あの時は本当に悔しくて!」
振り返って語る声も思わず大きくなっていた。シングル王座にはまだ届かないかもしれない。でもタッグなら、関口と2人ならベルトが獲れると信じていた。アクトレスガールズでタッグといえばKKMK、そんな自負もあった。だが結果が出なかった。しかも自分のギブアップ負け。タッグでも“関口翔のパートナー”として一歩引いている場合ではなくなった。
「負けたのはベルトに対する気持ちの差だって言う人もいました。でも絶対そんなことないんです。気持ちを理由にされたくない。気持ちを見せなくちゃいけない。それまで以上にそう思うようになりました」
6月、挑戦者決定戦と位置付けられる試合で3カウントを取った青野は、そのままマイクを握り挑戦表明した。8月の後楽園大会では、青野が尾崎に勝利してベルトを巻いた。これまでのキャリアで一番嬉しい出来事だった。リング上でもインタビュースペースでも泣いていた。もう感情を出すのは苦手でもなんでもなかった。隠そうにも溢れ出て止まらなかった。
「ちょっと今、病人の役はできないかも(笑)」
挑戦を決めた試合でもタイトルマッチでも、フィニッシュは青野のバックドロップだった。もう一つの得意技はラリアット。どちらもプロレスファンではなくとも知っている技だし、使う選手が多い。多すぎてフィニッシュ技というイメージが薄れていると言ってもいい。
坂口代表の勧めでバックドロップやラリアットを使うようになった青野。自分ではやろうと思わなかったはずだと言う。しかしやってみると手応えがあった。
「使う人が多い技だから、比べられやすいですよね。自分のバックドロップやラリアットがショボければ、お客さんの反応ですぐに分かります。逆にいうと、比べられやすいからこそ磨きがいもあるのかなと」
バックドロップは足を抱えず相手の胴体をクラッチする“ヘソ投げ”スタイル。ラリアットは身体ごとぶつかっていく。どちらも「これで相手を仕留める」ことを意識した形だ。“古風”とも言えるフィニッシュはむしろ新鮮でもある。
かくして、タレントで女優でパワーファイターのタッグ王者が生まれた。少し前までプロレスを生で見たこともなかったのに、今ではバックドロップの投げ方、ラリアットの打ち方にこだわりを持っている。相手を持ち上げる時も打撃でも重要だから、ウェイトトレーニングでは背筋を重視しているそうだ。練習しているうちに、身体は自然に大きくなった。
「特に腕とか肩まわりは大きくなりましたね。ちょっと今、病人の役とかはできないかもしれない(笑)」