濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
芸能界で苦しんだ“女優レスラー”青野未来がリングで見つけた輝き方「今やっと、プロレスが“武器”になった」《特別グラビア》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/12/12 06:00
女優によるプロレス団体アクトレスガールズの青野未来。
「なぜ闘うのか、モチベーションが分からなかった」
趣味の中にはサーフィンやスノーボードも。運動神経は悪くないからプロレスの練習でもマット運動や筋トレは苦にならなかったが、受身には四苦八苦した。プロレスを知らないから、それが何のための技術なのかという理屈が呑み込めないのだ。ボディスラム、エルボー、ストンピングといった基本的な技を覚えてリングに上がっても“プロレスラー”にはなれていなかった。
「なぜ闘うのか、なんのために勝ちたいのかっていうモチベーションが分からないんですよ。プロレスで有名になりたい、演技の世界での武器にしたいという気持ちはあるんですけど……」
その気持ちと“殴る蹴る”が結びつかないという感じだったのだろう。プロレスとは不思議なもので、同じ団体に属する選手は仲間でありライバルでもある。一緒に練習し、それこそ同じ釜の飯を食って、なおかつリング上では殴り合い蹴り合い、投げて投げられ、勝ち負けがつく。嫌いでもない、むしろ信頼し合っている相手を攻撃するというのが“プロレス的な関係”なのだ。
プロレスラーらしいマインドが備わってきたのは、デビューして少し経った頃。ボコボコにやられながら、観客の声援が聞こえた。これが“一体感”なのかと闘いながら思ったそうだ。この人たちは私と一緒に闘ってくれている、自分1人で試合をしているんじゃない、そんな感覚になった。
「私は応援してくれる人たちのために闘えばいいんだ。あの人たちに喜んでもらうためにも勝ちたいって思うようになりました。それにお客さんに楽しんでもらうという意味では、芸能もプロレスも似てるんだなと」
“専業プロレスラー”にも負けないもの
アクトレスガールズは青野と同じ2017年デビューの選手が多い。先輩、後輩もだが、仲がいいと同時にベタベタともたれ合う雰囲気ではなかった。基本的にみな芸能界からの挑戦だ。「ここでモノにならなければ」という気持ち、「うかうかしてたら置いていかれる」というライバル意識は表には出さなくとも常にあった。
上昇志向、観客の前で輝きたいという渇望は“専業プロレスラー”にも負けない。芸能界出身者はプロレスに向いてるんじゃないかと言っていたのは、アクトレスガールズ出身で現スターダムのなつぽい(青野のデビュー戦の相手でもある)だ。
正直に言えば、やめたいと思った時期がないわけではない。けれど必死に取り組んでいるうちにプロレスの楽しさも分かってきた。アイスリボンへの定期参戦も大きかったようだ。本来はそれが普通なのだが、プロレスが好きでプロレスラーになりたくてなった選手たちは、青野にとって未知の存在かつリスペクトの対象だった。