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「練習中もみんなが藍を見ている」バレー日本代表・高橋藍が五輪後に戦った“重圧”…20歳でイタリア挑戦を決めた理由とは?
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKoomi Kim
posted2021/12/08 11:03
イタリア挑戦を決めた日体大2年・高橋藍。東京五輪での経験と悔しさをパリ五輪につなげるために決断した
そんな姿に逞しさを感じる一方、過度なプレッシャーになるのではないかと危惧していたのが、日体大の市川健太主将だ。学年は2つ違うが、高橋とは寮も同部屋で普段から仲が良い。U-17日本代表経験があり、卒業後はVリーグのウルフドッグス名古屋へ入団する市川は、東京五輪後の高橋を囲む環境の変化を誰より感じていた。
「全体練習中も、練習後もみんなが藍を見ているんです。たとえば自主練習の時も、藍は普通にサーブレシーブやスパイク練習をしているだけなんですけど、自然と選手が集まってサーブレシーブの面の形や、スパイクの打ち方を観察する。それだけ影響力が大きくて、チームの軸であるのは間違いないですが、常に注目し続けられる存在っていうのは、大変だろうな、と。藍はそんなこと絶対に言わないし、出さない。しんどくても常にバレーボールを楽しそうにやっていたけれど、(インカレまでの)3カ月、結果を求め、出さなきゃいけない、と藍が誰よりも苦しかったと思います」
チームを勝たせたい。勝つことで証明したい。気負いは、プラスではなく重圧になった。
高橋対策を徹底した順天堂大
関東大学秋季リーグで優勝、第1シードの日体大は慶應大との2回戦から登場。連戦が続くことを考慮し、高橋はスタメンから外れてベンチスタートとなったが、1-1となった第3セット終盤に、劣勢が続く状況を挽回すべく急遽投入された。そのセットは取られて1-2としたが、「いつでも行ける準備はできていた」と話したように、試合が進むうちに高橋の攻撃力は随所で輝き、すぐさま4セット目を奪取。最終セットも自身のサービスエースで締めくくり、15-8。フルセットの辛勝で3回戦進出を果たした日体大は、続く天理大戦もストレート勝ちを収めた。
“初戦こそ苦戦を強いられたものの、その後は順当に勝ち進むだろう”
おそらく大半が、そんなストーリーを予想していたはずだ。だが、迎えた準々決勝、日体大の前に立ちはだかったのが順天堂大だった。
ポイントゲッターで攻守の要である高橋に対し、順大は傾向を徹底的に分析した。ブロックで締めるべきコースは締め、抜いた場所にはリベロが入る。卒業後にVリーグのジェイテクトSTINGSに進む高橋和幸(順大)の度重なる好守もあり、決まった、と思う攻撃も決まらない。
日体大は2セットを先取したものの、セットを重ねるごとに順大はブロックとレシーブのトータルディフェンスが機能し、気づかぬうちに焦りが生じた。これまで高校、大学でも高さで劣る相手に対しても無理矢理打ち付けることはせず、ブロックに当ててコートの奥を狙う巧みさを見せてきた高橋も、高さと力で叩きつけようと決め急ぐ。その結果、下へ打ち付けたスパイクを、出すべきコースに手を出した順大のブロックが仕留めた。
勝負所で高橋が止められ動揺する日体大に対し、順大は一気に盛り上がる。勢いの差は明確だった。最後も3枚ブロックに対してストレートに打った高橋のスパイクがエンドラインを割り、11-15。フルセットの末に順大が勝利を収め、「勝ってイタリアへ」という高橋の目標は潰えた。