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絶対的ピンチでなぜ菅野智之と坂本勇人は“笑った”のか? 巨人・原監督があえて「代打の神様」と満塁で勝負した本当の理由
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph bySankei Shimbun
posted2021/12/03 17:06
ヤクルトとのクライマックスシリーズ、ファイナルステージ2回戦の6回、自らマウンドに行き菅野らに作戦を伝えた巨人・原監督
初戦の流れを支配したのは、ヤクルト先発の奥川恭伸投手だった。98球の完封劇。巨人は手も足も出ないままに、シリーズそのものの流れもあっさりヤクルトに手渡す初戦となっていた。だからこそエースの菅野を中4日で先発に立てたこの試合は、ただ単に勝つだけではなく、シリーズの流れをしっかりとつかんだ形で次戦へと繋げなければならないポイントの試合だったのである。
しかし、実際にはさらに状況は悪化していた。
巨人は強引にでも流れを引き寄せる必要があった
2回に1死満塁から西浦の犠飛で1点を先取され、打線は初回の2死満塁の先制機を潰すと、尻上がりに調子を上げていく高橋の前に4回から3イニング連続で3者凡退といいところなく沈黙を繰り返していた。
ヤクルトの奔流の中でアップアップしている。それがこのとき巨人の置かれた状況だったのである。
だから強引にでもこちらに流れを引き寄せるには、自分たちが主導して試合を動かさなければならなかったのだ。そのためには多少のギャンブルでも、思い切った策を講じなければならない。手をこまねいていることは、まさに愚策ということだった。
「こっちが動いて、そして相手を動かす」──もちろん高橋は6回までで既に102球を投げ、シーズン中なら7回からは継投策に入ることはわかっている。ブルペンでアルバート・スアレス投手ら中継ぎ陣が準備をしていることも、当たり前だがもちろん確認もしている。敬遠しないでも高橋が代わる可能性が高いのは百も承知で、だが、ここでもう1つ、大事なことはヤクルトがいつも通りに継投に入るのではなく、自分たちが先に動いて、巨人主導で継投に入らせるということだったのである。
レギュレーション的には引き分けは負けと一緒
試合は2回にヤクルトが1点を挙げてからは、お互いに決定打が奪えずこう着状態にあった。流れを自分たちに引き込むには、何とか試合を動かさなければならなかった。それも自分たちで主導権を握った形で試合を動かすことが必要だったのだ。
しかもシリーズのレギュレーション的には引き分けは負けと一緒なので、1点負けている状況は2点のビハインドを背負っているも同じだった。
そしてマウンドは菅野である。