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絶対的ピンチでなぜ菅野智之と坂本勇人は“笑った”のか? 巨人・原監督があえて「代打の神様」と満塁で勝負した本当の理由
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph bySankei Shimbun
posted2021/12/03 17:06
ヤクルトとのクライマックスシリーズ、ファイナルステージ2回戦の6回、自らマウンドに行き菅野らに作戦を伝えた巨人・原監督
ポイントは6球目の意表を突く外からのカットボール
菅野対川端。初球の真っ直ぐを見逃した川端が、2球目はファウルであっさり追い込まれた。しかしそこから外の真っ直ぐ、インローのスライダー、そして再び外の真っ直ぐとボールが3つ続いてフルカウント。そして続く6球目、菅野の選択は意表を突く外からのカットボールだった。見逃せばストライクだったが、この渾身の一球を、川端が何とかカットしてファウルで逃げたところで勝負はあったのかもしれない。
続く7球目は大きく外角に外れた。勝負の結果は押し出しの四球となり、ヤクルトに貴重な追加点が刻まれた。そしてこの1球で精根尽きた菅野は、1番の塩見泰隆外野手に左中間を破る走者一掃の三塁打を浴びて撃沈したのである。
「川端が出てくるのは分かりきったことなのに、なぜ西浦を歩かせたのか?」
試合後には西浦の申告敬遠を指示した原采配に批判が集中したのはご存知の通りである。
「こっちが動いて、そして相手を動かして」
「まあ、あの……流れが我が軍になかなか来ないというところですね。動いて……ここはこっちが動いて、そして相手を動かして、そしてそういう形でいくと。まあ、そういうことですね」
この敬遠策を問われた、試合後の原監督のこれが正確なコメントである。
「こっちが動いて、そして相手を動かして」という言葉から、もちろん苦戦を強いられていた先発左腕の高橋に代打を出させるために、西浦を歩かせたというのは誰でも分かるこの敬遠策の1つの狙いだ。
ただ、もう一つ、同時に大事なのは冒頭の「流れが我が軍になかなか来ないというところですね」という言葉だと思う。そこにこの場面でなぜ原監督が西浦とではなく、無謀とも思える代打・川端との勝負を選択したのかを解き明かすヒントがあるように思うのだ。
以下は1つの私見である。
多くの監督や選手たちが「流れ」を意識して戦っている
野球は勝負の流れのやりとりだ、と言われる。
実際に「流れ」が本当に勝負の行方を左右するのかどうかはわからない。ただ、グラウンドに立つ多くの監督や選手たちが、その「流れ」を意識して戦っているというのは確かな事実である。
もちろん勝負ではベンチが何もしないままにあっという間に流れに乗って、相手をなぎ倒して圧勝することもある。だが逆に何もできないままに、相手の流れのままに試合が終わって、あっさり負けることもある。ファイナルステージ初戦の巨人は、まさにそんな一方的な流れでヤクルトに完敗を喫した。