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【祝85歳】全ドイツ人に愛されるウーベ・ゼーラーというレジェンド ベッケンバウアーが「ローマ法王の次に完璧」と絶賛するその優れた人間性とは?
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/12/03 17:01
西ドイツ代表、ハンブルガーSVで活躍したウーベ・ゼーラー。ピッチ外での振る舞いも多くの人たちに影響を与えている
点を取る秘訣は「観察する目を持つこと」
また、デュイスブルクとシャルケで活躍し、1980年のヨーロッパ選手権で頂点に立った西ドイツ代表キャプテンのベルナルド・ディーツは「一度でいいからウーベ・ゼーラーとのヘディング勝負に勝つことを夢見ていたよ」と述懐していた。
分かっていても止められない。気がついたらフリーでシュートを放たれている。それは身体能力によるものだけではない。ゼーラーは、ストライカーとしての秘訣について次のように表現したことがある。
「観察する目を持つことが大切だよ。周りの選手が動き回っているときほど、じっと押し黙って気配を消すんだ。そして周りの動きが収まったときに動き出す。あとは、ゴールに直結する動きを知ることが大切だ。ボールを持つ味方と逆方向へ動けば相手DFの視野から消えることができる。味方がシュートを打つときが、相手守備のマークが緩む瞬間なんだ。ファーポストの方へスルリと抜け出せれば、DFやGK、ポストやバーにあたって跳ね返ったボールがこぼれてくる可能性はグッと高まる」
いつでもチームを最優先に考える選手
ゼーラーの素晴らしさは、サッカー選手としてだけではない。彼は、いつでもチームを最優先に考える選手だった。
元ドイツ代表監督のユップ・デアバルは、70年W杯前のゼーラーとの話し合いの様子を後日、明かしている。当時、ドイツでは稀代のストライカーであるミュラーとゼーラーのどちらを起用すべきかで連日議論が盛り上がっていた。我の強いストライカー同士の共存はあり得ない。誰もが、そう捉えていた。
「『メディアや世論では、君とゲルトは別々の部屋を求めていて、どちらも典型的なFW。そんな2人が一緒にプレーできるとは誰も信じていないとされている。2人が同室というのは本当に不可能なのだろうか?』と聞いたんだ。
すると、ゼーラーは私の目をまっすぐに見て、ちょっとニヤッとしてからこう答えたよ。
『ゲルトの方がよければ僕には全く問題ないよ』
そして、その言葉に嘘偽りはなかった。ウーベはチームのためにすべてを尽くす準備ができている人間だった。いつでもハーモニーとその先にある勝利を考えていたんだ」
70年のメキシコW杯では、ミュラーがトップ、ゼーラーはトップ下のような形でともにプレーした。33歳となっていたゼーラーの経験はチームの財産だった。