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【祝85歳】全ドイツ人に愛されるウーベ・ゼーラーというレジェンド ベッケンバウアーが「ローマ法王の次に完璧」と絶賛するその優れた人間性とは?
posted2021/12/03 17:01
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph by
Getty Images
サッカー界には様々なレジェンドがいる。11月5日に85歳の誕生日を迎えた元西ドイツ代表ストライカーのウーベ・ゼーラーも、その1人だ。
ドイツの点取り屋と言えば、真っ先に名前が挙がるのはゲルト・ミュラー(享年75歳)かもしれない。しかし、ゼーラーは選手として、そして人間としてドイツのすべての人に愛されているといっても過言ではない。
西ドイツ代表では72試合で43ゴール
西ドイツ代表で長くともに戦った盟友フランツ・ベッケンバウアーは「ウーベは宝。この世に完璧な人間がいるかわからない。ひょっとしたらローマ法王がそうなのかもしれない。だが、その次に当てはまるのはウーベ・ゼーラーだろう」と、最大限の賛辞を送っている。
ゼーラーの何が素晴らしく、何が人を惹きつけているのだろう?
ハンブルガーSVでリーグ優勝、ドイツカップ優勝。63年に創設されたブンデスリーガの初代得点王で最優秀選手である。西ドイツ代表では72試合で43ゴール。ワールドカップ優勝という悲願こそかなわなかったが、66年大会で準優勝、70年大会で3位。1972年にはドイツサッカー協会より、史上2番目となる名誉キャプテンとして表彰された。
1960年、『ハンブルガー・モルゲンポスト』紙は「我々の街に彼のことを知らない人など1人もいない」と書いた。150万都市のハンブルクで、だ。
『キッカー』誌のフリーデベルト・ベッカーは「観衆を沸かせるトリック性の高いシュートだけが魅力的なのではない。倒れこみながら放ったアクロバティックなゴールは何よりも価値があるものだった。大きな体を持っていたわけではない彼が、他の誰よりもサッカーの美徳を見せてくれた」と表現した。
34歳なのに若い選手よりも高く飛ぶ
ゼーラーは体躯に恵まれた選手ではない。身長は170㎝。だが、誰よりも敏捷だった。ドイツサッカー史における名将の1人ゼップ・ヘルベルガーは「彼よりもテクニックのある選手は間違いなくいるだろう。だが、ウーベほど狭いスペースで効果的なプレーができる選手はいない」と明言していた。
こんな逸話もある。
1969-70シーズンのこと。ハンブルガーSVはロートバイス・オーバーハウゼンと戦って2-1で勝利した。2ゴールを決めたのは、もちろんゼーラー。試合後、オーバーハウゼン監督のアディ・プライスラーは「うちの若い選手とゼーラーを比較していたら、もう何が何だか分からなくなったよ。ゼーラーは34歳だ。なのに若い選手よりも高く飛んで、どんどんゴールを決めていく。そして、他の誰よりも走る。本当にすごい選手だ」と脱帽した。