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ヤクルト高津“二軍監督”が語っていた「3年目の高橋奎二は回復が追いつかない」6年前の“高卒ドラ3”が日本シリーズでプロ初完封するまで 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byNaoya Sanuki

posted2021/11/23 11:08

ヤクルト高津“二軍監督”が語っていた「3年目の高橋奎二は回復が追いつかない」6年前の“高卒ドラ3”が日本シリーズでプロ初完封するまで<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

日本シリーズ第2戦、プロ6年目で初完投初完封を果たした高橋奎二(24歳)

 2018年 先発3  1勝1敗
 2019年 先発19  4勝6敗
 2020年 先発9  1勝3敗
 2021年 先発13  4勝1敗

 2021年も、さほど目立った数字を残しているわけではない。ただし、今季は中身が違った。

 アメリカで用いられる指標に「WHIP」というものがある。これは1イニングあたり、四球とヒットの走者をどれくらい出すかという指標だ。

 高橋のWHIPの変遷を見ると、2018年からは1.47、1.59、1.42と推移してきたが、今季は1.07に大幅に改善しているのだ。

 改善の要因は、制球が定まってきたことと(ただし、立ち上がりのコントロールに課題は残している)、スピンがきいた速球で、相手打者を力で押し込めるようになったこと。ランナーを許す数が減っているのだから、当然、ピンチは少なくなる。

 これほどの投球をしているのだから、首脳陣としては、週に1度は先発させたいところだろう。しかし、高橋の登板間隔は2年目の奥川恭伸並みの、中10日前後が多かった。かつて2週間ほど必要だった回復期間は短くなってはいるが、球団としてはまだ育成に気をつかっている段階ということだろう。

 レギュラーシーズンでも、投球回数にそれは表れていて、今季の最長は7回まで。9回打ち切りの影響もあるが、高橋は6回、あるいは7回までを全力で投げ、持ち味を発揮していた。

8回122球でも…伊藤コーチの“人差し指1本”

 日本シリーズ第2戦は、難しい展開になった。

 高橋、そしてオリックスの先発、2年目の宮城大弥が一歩も譲らず、7回まで両軍のゼロ行進が続く。

 7回を投げて、高橋の投球数はちょうど100球だった。

 8回表、ヤクルトが走者を出し始めた段階で、高橋は三塁ダグアウト前で投球練習を始めた。この回、ヤクルトは7番オスナからの打順で、レギュラーシーズンならば9番高橋のところで代打が出ただろう。しかし、パ・リーグの本拠地ということもあり、高津監督は高橋の続投に迷いはなかったはずだ。

 すると、2死一・二塁のチャンスにベテラン青木宣親が、詰まりながらも外野へヒットを運んだ。

 1対0。

 8回までかな、という予想がついた。

 8回裏、高橋が苦労したのは9番安達了一だった。シーズン中、本塁打ゼロのチーム打撃の鬼は、ファウルで徹底的に粘り、高橋は根負けした格好で9球を投げて四球。その後、1番福田周平、2番宗佑磨を打ち取ったものの、8回は22球を要した。

 122球。

 令和の世の中では、交代が常識の数字だろう。

 安達への投球を見たところで、私は交代を予想した。

 ところが、ダグアウトに戻った高橋に対し、伊藤智仁投手コーチは右手の人差し指を1本立てた。NHK-BSで解説を担当していた和田一浩氏は、こう解説した。

【次ページ】 「高橋に頼る、高橋に任せる」

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