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あの6回ウラ“申告敬遠”がすべてを変えた…巨人・原辰徳采配にヤクルトファンすら驚く「好投の高橋を降板させたかった、は本当か?」
posted2021/11/16 11:03
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Sankei Shimbun
巨人軍・原辰徳監督の申告敬遠がコールされたとき、神宮の一塁側スタンドがどよめいた。
「マジで?」
私はダグアウト上の14段目に座っていたが、同行の友人と顔を見合わせた。
「これ、なにかの間違いじゃないですかね?」
菅野が神宮を支配しかけていた、そのとき…
状況を振り返る。
ヤクルト実質2勝で迎えたクライマックスシリーズ第2戦。スコアはヤクルトが1対0でリードした6回裏。巨人の先発菅野智之は、中4日にもかかわらず、粘りの投球を見せていた。
そしてこの回、試合が動く。
先頭の村上宗隆が鮮やかな二塁打で出塁すると、次打者サンタナは遊ゴロで一塁側スタンドからはため息が漏れる。これじゃ、進塁打にもならない――。
ところが坂本勇人の送球が右に逸れ、一塁・中島宏之がベースを離れて捕球しタッチにいくが、これが空タッチになってしまう。なにかが起きる予感が充満すると、続く6番中村悠平が美しすぎる犠牲バントを三塁線に決め、1死二・三塁のチャンスとなった。
一塁側スタンドは、一気に得点機の予感に沸いた。「気」が充満していると言ってよかった。
しかし、この流れを止めたのが菅野だった。7番のオスナに対し、ボール2つが先行したものの、ここからファウル3つで追い込む。最後は空振り三振。この三振でムードが変わる。
この回も無得点じゃないか。
オスナを三振に取った菅野の一球は威力があり、まだまだ余力があると思われたからだ。しかも続くのは8番の西浦直亨。1打席目でセンターへ犠牲フライを打っているものの、確率的には菅野が有利だ。
ヤクルトの気が弱まり、菅野のオーラが神宮を支配しそうな気配が漂っていた。
ところが――。
ここで原監督がダグアウトを出て、自らマウンドに向かう。ピンチの場面での作戦の徹底だろうか。
私がスタンドで感じたのは、菅野の支配力がこの「マウンド・ビジット」でやや薄れたことだ。いい流れだったのに、水を差すような動きに思えた。
しかも、原監督がダグアウトに戻ると、右手を大きく一塁に指した。
申告敬遠である。
好投の高橋をマウンドから下ろしたかったから?
ヤクルトのダグアウト前では、川端慎吾が用意をしていた。ここまで無失点だった9番の高橋奎二への代打の準備だ。
原監督は、西浦ではなく、今季「代打の神様」とうたわれる川端との勝負を選んだ。