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ユニヴァーサルDHとユニコーン大谷。来季ナ・リーグもDH制導入で「打席に立つ投手」は大谷翔平だけに!? 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2021/11/06 06:00

ユニヴァーサルDHとユニコーン大谷。来季ナ・リーグもDH制導入で「打席に立つ投手」は大谷翔平だけに!?<Number Web> photograph by Getty Images

ワールドシリーズ第5戦に代打で登場してライト前ヒットを放った、アストロズのザック・グリンキー投手

 これだけバットが湿ると、野球人気にも影響が出る。投手が怪我をしやすくなるという弊害も以前からしばしば指摘されてきた。手首や腕に死球を受けるリスクが高まるだけでなく、打者走者として走る際に、靱帯やハムストリングスを痛めるケースが少なくないのだ。

 と書くと、大谷翔平が右手首に死球を受け、苦痛に悶絶していた姿を思い出す方は少なくないだろう。私もひやりとした。あの死球禍は、今季終盤に大谷の本塁打数が激減した理由のひとつに数えられるのではないか。

 名前を出したついでにいっておくと、このルール変更によって大谷翔平の「ユニコーン」ぶりはいやが上にも際立つと思う。いまのところ、来季、定期的に打席に立てそうな投手は彼ひとりなのだ。

「たまに登板しそうな野手」なら、アレックス・ヴァードゥーゴやマイケル・ローレンゼンの名が思い浮かぶが、「打席に立てそうな投手」は大谷を除くとまず考えられない。

 さらに先走ったことを言わせてもらうと、このルール変更によって、大谷はナ・リーグの球団でもプレーする可能性が出てきた。ドジャースやジャイアンツやパドレスやメッツあたりは、さっそく具体的な獲得案を画策しているのではないだろうか。

打撃が得意な投手は大谷だけでない

 しかし、と私はここで立ち止まりたくなる。「打席に立つ投手」は大谷を除いて本当に絶滅してしまうのか。

 ワールドシリーズ第5戦の4回表、アストロズは「投手の」ザック・グリンキーを代打に送った。第4戦の先発投手だった彼は、ライト前に痛烈なライナーのヒットを放つ。観客はもちろん大喜びだった。

 アストロズに野手の数が足りなかったこともあるが、もともとグリンキーはバッティングを好んでいる。MLB18年間の通算打率は.225を記録しているし、ポストシーズンの通算でも26打数7安打3三振と、なかなか渋い成績だ。2013年のレギュラーシーズンなどは、58打数19安打7四球6犠打(打率.328)という立派な数字を残している。

 グリンキー以外にも、打撃が楽しみな投手は少なくない。マディソン・バムガーナーは13年間で109安打/19本塁打を放ってきたし、アダム・ウェインライトは16年間で75打点を記録している。

 もうひとり忘れてならないのは、剛腕ジェイコブ・デグロムだ。21年の彼は、打席数こそ多くないものの、33打数12安打(.364)という堂々たる数字を残した。これは名投手トム・グラヴィンが96年に残した成績(76打数22安打)に優るとも劣らないものだ。

 正直にいうと、私は彼らの打撃をたまに見たい。大差のついた試合で打席に立ち、そこで怪我をしたら冗談にもならないが、合理的機能性だけを追求するベースボールは、やはりちょっと寂しい。あるいは、大谷翔平につづく「ユニコーン2号」の出現を待つべきなのか。とりあえずは、大谷の「2年連続超人的活躍」に期待しよう。

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