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ビジャレアル所属の11歳日本人に聞いた“日本とスペインの違いって何?”…門戸を開くラ・リーガの本気度
posted2021/10/31 11:01
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph by
LaLiga
若年層のうちにスペインに渡り、ラ・リーガのカンテラ(育成組織)でカテゴリーを上げ、プロサッカー選手への門戸を開く――。そんな日本サッカー界の育成を根幹から変貌させる可能性を秘めたプロジェクトが、スペインの地でスタートしている。
過去、久保建英など一部の例外はあったが、日本人選手が長期にわたってラ・リーガのクラブの下部組織に在籍することは、FIFAルールの改定により原則不可能となった。その結果、数カ月というスパンでの“お客さん”に近い形での短期留学は可能だったものの、カンテラで本格的な指導を受けることが実質困難になっていたのだ。
ただ、今シーズンからラ・リーガでスタートされた新プロジェクトにより、日本人であっても現地の学校に通いながら、プロ契約ができる18歳までラ・リーガのクラブへの長期滞在が可能となった。そして、そのままプロへの道が開けるというシステムが出来上がったのだ。
仕掛け人は、今季からラ・リーガと育成パートナーシップを結ぶ日本企業のワカタケグループだ。スポーツスクールの運営、留学斡旋を扱ってきた同社はすでにセルタ、ビジャレアル、レバンテ、ベティスといった11クラブと提携している。
まず、この育成パートナーシップとはどのようなものなのかを少し解説しよう。
日本でのセレクションを突破した選手(9~15歳前後)は、スペインに渡って今度はラ・リーガが主催するテストを受ける。そこで目に適った選手は、各クラブへの練習参加が認められ、そこで結果を出せばクラブに所属するという形となる。狭き門なのは言うまでもないが、ラ・リーガ側が日本の原石を直接評価し、適正のあるクラブへ預けるということだ。
ラ・リーガも労力と時間をかけて、直接選手を見て各クラブとの提携の工程に関わるあたりに、本気度も伝わってくる。
10~12歳の教育で差がつく
気になる選手選考について、「Jリーグの下部組織に合格する程度の基準」と語るのは同社代表の稲若健志(41)氏だ。
「現在のラ・リーガ(1部)で活躍するアジア人は、久保建英とイ・ガンイン(ともにマジョルカ)しかいません。2人に共通するのは、若年層からスペインサッカーに慣れたことです。スペインのどのクラブの育成でも言われるのは、10歳から12歳の教育で大きく差がつくということ。この年代から戦術やサッカー理解を落とし込んでいくからです。
肌感覚的には、Jリーグの下部組織に入るような子はカンテラの同世代と能力は遜色ない。ただ、カテゴリーが上がっていくと埋めがたい差が生じる。理由はシンプルで、Jクラブの場合はJのトップチームをゴールに育成を考えますが、スペインでは世界のトップレベルを想定して物事を組み立てる。つまり、国内で完結しているかそうでないか、という違いがある。リーグレベルの差もありますが、その環境と競争力の差が大きい。
それなら、能力が高い日本の子どもたちがレベルの高いカンテラで経験を積めば、ラ・リーガで活躍する選手が出てくるのでは、というところが全てのスタートです」
実際に、すでに40人ほどの子供たちが渡西している。中には厳しい競争に敗れて帰国した者もいるが、スペインサッカーに適応して同世代のカテゴリーでトップまで登りつめた日本人も生まれているという。