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ビジャレアル所属の11歳日本人に聞いた“日本とスペインの違いって何?”…門戸を開くラ・リーガの本気度
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph byLaLiga
posted2021/10/31 11:01
ビジャレアルに所属する高橋琉以(るい/11歳)君と高田想(たかた・そう/10歳)君。現地の学校に通いながら、スペインサッカーの教育のもと技を磨いている
「日本サッカーの発展に大きく貢献したのが、ブラジルとイタリアでしょう。ジーコやレオナルドといったレジェンドが成長に寄与し、イタリアでは中田英寿という国と国とを繋げたプレーヤーが生まれた。イタリアの後に、多くの選手がドイツに渡り成功を収めている。前提として、日本のサッカーの発展スピードは目覚ましいものがあります。1993年にJリーグが開幕してから、30年足らずでアジアのトップリーグとなり、まだまだ成長していくでしょう。
スペインでも90年代に財前宣之、その後に城彰二、乾貴士、柴崎岳、岡崎慎司、久保らがラ・リーガの門を開いた。だが、残念ながらドイツやイタリアとは異なり、適応には時間がかかっている。その理由は技術だけではカバーできない、埋めがたいサッカー観の違いがあると捉えています。この問題は時間が解決してくれるでしょうが、その適応に時間がかかっているのも現実でしょう」
イタリアとドイツよりもスペインサッカーに特殊性がある。そこに慣れるには、膨大な時間を要する、とも取れる発言だ。そして、ギシェルモ氏はこうも続けた。
「多くの日本人がヨーロッパでプレーする時代に、スペインではまだ受け入れるプロセスの途中です。何をすれば成功するという定義はないですが、若い年代からスペインという国に来て慣れていくことは、最も成功への近道のような気がします」
従来の短期滞在と大きく異なるのは、現地のスペイン人と全く同じ生活をして、文化を学べる点にある。これらはラ・リーガから各クラブへと要請し、学校教育を必要な要素として捉えていることが大きい。これまでは私立の学校に通うケースが大半だったが、このプロジェクトでは現地の公立学校に通うということが統一されている。
筆者はこれまでラ・リーガ各クラブにて育成部門の責任者たちの話を複数聞いてきたが、共通して強調していたのは「ピッチ外での教育の重要性」だった。これはスペインの地でカテゴリーを上がっていくことの難しさにも起因するが、サッカーの技術に加えて教育水準を重視するという極めてスペインらしい発想でもある。
「日本人は非常におとなしい」
受け入れる側のクラブの反応も概ね良好で、長いスパンで物事を捉えながら日本人選手の可能性と現状について、冷静に分析している。セルタのアカデミー「コルディナドール」の責任者で、14年間クラブに勤めるディエゴ・ガルシア・サラビア(46)がこう話す。
「これまで見てきて感じるのは、日本人は技術的には違いはほとんどないということです。生活への適応水準も高い。ただ戦術理解とリズムの面では差がある。ですが、これはトレーニングで縮めていける部分です。日本とスペインの間で強固な基盤を構築するために、両当事者に『水をやる』必要があるという未来は、すでに現実のものになってきています。セルタの育成を受けることでプレーヤーをさらに高次元化し、このプログラムからリーガの選手を出すことが目標、とクラブも捉えていますね」
ビジャレアルでインターナショナル部門の責任者を務めるブランドン・パラモ(34)は、スペインで教育を受けることの影響力の大きさを強調する。
「スペイン人はピッチ上での表現力に長けており、日本人は非常におとなしい面がある。ヨーロッパではおとなしいプレーヤーは評価されにくいのが現実です。ですが、スペイン人と同じ視点で学校教育を受けられるという環境は、それらを選手たちに気づかせるでしょう。若者が持つ文化的、および教育的経験による上昇度合いは計り知れません。 彼らがより良いアスリートになるだけでなく、一人の人間としてユニークな経験を持てることも、このプロジェクトの価値を高めていると考えてます」
リーガや各クラブとの関係構築から契約締結までは、長い年月を要してその仕組みづくりが行われてきた。さらに10~14歳前後の子どもたちが多いため、結果として表れるまでに長期的な視点が必要だ。毎年多くの選手の入れ替えが行われるカンテラで、トップチームまで上がっていくのはスペイン人でもほんの一握りしかいない。それが日本人となると言うに及ばずだ。
それでも稲若氏はラ・リーガ協力の下、この取り組みが欧州で活躍する日本人の裾野を広げることを確信しているという。