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松山英樹を奮い立たせた「プライド」と「がんばれ!」…“地の利”を凌駕した世界基準のスーパーショットが生まれた理由
posted2021/10/27 06:00
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Getty Images
ピンの1ヤード奥につくったピッチマークを直すあいだには、緊張から解き放たれただろうか。
2年ぶりに千葉県のアコーディア・ゴルフ 習志野カントリークラブで行われたZOZOチャンピオンシップ。日本開催の唯一のPGAツアーはその数分後、イーグルパットを流し込んだ松山英樹のガッツポーズで締めくくられた。
「千両役者」という言葉は“歌舞伎由来”。江戸時代、まさに年収が千両に及ぶような絶大な人気を誇った演者を言い表したところから来ている。
1両の貨幣価値は260年以上続いた江戸時代の時期によっても違うそうで、江戸初期では現在の10万円前後に相当したとか(幕末は1万円程度/日本銀行金融研究所 貨幣博物館ホームページより拝借)。そのレートでは千両役者はいわば年間1億円プレーヤーである。現実的な話をすれば、彼らのようなPGAツアーのトッププロはスポンサー収入を含めて年間10億円以上をかっさらうため、千両どころか“万両役者”に近い。
屁理屈はさておき、周囲の期待を裏切らないことこそが千(万でもいいけど)両役者としての立ち振る舞いであり、松山の勝ちっぷりはそれにふさわしかった。勝負に挑む準備、コンディションが望んだものでなかったにせよ、である。
「時差で覚醒したらいいな……」
思い起こせば半年前、歓喜のマスターズを控えたときの彼のゴルフは低調だった。そして今回も、舞台袖では大慌て。試合間際まで不振にあえいでいた。ある意味では、春先よりも深刻に。
直前のラスベガスでの2連戦を67位、59位と低調な成績で終え、PGAツアーが手配したチャーター機に乗り込む前には「飛行機移動と時差で覚醒したらいいな……」とまで出来を嘆いたほどだった。