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大谷翔平とメンドーサ・ライン。フライボール革命の副作用「低打率/多三振現象」はいつまで続くのか?
posted2021/10/09 06:01
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Getty Images
大谷翔平がホームランを打つと、鼻歌が出る。今季最終戦の1回表、大谷がシアトルの右翼席にライナーを叩き込んだ瞬間、私は思わず知らず、ハーマンズ・ハーミッツの〈キャンチュー・ヒア・マイ・ハートビート〉を口ずさんでいた。
これで今季の合計は46本塁打になった。本塁打王獲得という千載一遇の好機を逃したのは返す返すも残念だったが、ア・リーグMVPはまずまちがいないところだろう。
ただ、MLBの個人タイトル争いはやはりきびしい。あのイチローでさえ、10年連続200本安打を記録しながら、首位打者に輝いたのは2度だけだったのだ(07年と09年には、3割5分台の成績を残しながら、リーグ2位に終わってしまった。マグリオ・オルドニェスとジョー・マウアーが、それぞれ3割6分台を打ったのだから仕方がない)。
フライボール革命の功罪
それにしても、今季のMLBは3割打者が少なかった。両リーグ合わせて14人。フライボール革命のあおりといえばそれまでだが、同時に「低打率/多三振」の長距離打者が眼についたことも、まぎれのない事実だ。
大谷翔平の打率(.257)が物足りない、三振数(189)が多すぎる、という声はシーズン中からよく耳にしたが、大谷より粗っぽかった強打者は何人もいる。
アダム・デュヴァル(ブレーヴス)は、38本塁打を放ったが、打率は.228で、174三振を喫した。
カイル・シーガー(マリナーズ)は、35本塁打を記録しながら、打率.212、161三振。
マット・チャップマン(アスレティックス)は打率.210、27本塁打で、202三振。
もっと凄いのはジョーイ・ギャロ(ヤンキース)で、38本塁打(安打数は99)の陰には、打率.199、三振213、四球111という奇怪な数字が並んでいる。三振数・四球数はともにリーグトップで、OPSも.808に達する。つまり、低打率/多三振だけで彼を責めるわけにはいかないのだ。それに、ギャロ(主に左翼手)は守備が巧い。ヤンキースは当分彼を手放さないだろう。
ギャロの打率が2割を切ったことで、〈メンドーサ・ライン〉という言葉がメディアを賑わすようになった。
ご存じの方も少なくないだろうが、これは1970年代から80年代にかけてパイレーツやマリナーズの内野(主にショートストップ)を守っていたマリオ・メンドーサの名前に由来する言葉だ。