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大谷翔平とメンドーサ・ライン。フライボール革命の副作用「低打率/多三振現象」はいつまで続くのか? 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2021/10/09 06:01

大谷翔平とメンドーサ・ライン。フライボール革命の副作用「低打率/多三振現象」はいつまで続くのか?<Number Web> photograph by Getty Images

今シーズン途中の7月にレンジャーズからヤンキースに移籍したジョーイ・ギャロ。シーズンの三振数213は、キャリア最多の153試合に出場した結果でもある

 メンドーサは打てなかった。75年から79年にかけては、打率が2割に達しない年が4度もあった。これがいつしか、クラブハウス内でのジョークになった。打率が2割に届かない選手を見つけると、「メンドーサ・ラインを切っているぞ」と冷やかす習慣が生まれたのだ。マリナーズに移ったあとの彼はやや奮起し、通算打率も.215まで上がったのだが、メンドーサ・ラインの呼び名は球界に定着したままだった。

 そのラインを切る選手の数が、今季はことのほか多かった。

 規定打席数に到達した選手のなかではギャロとエウヘニオ・スアレス(レッズ/.198、31本塁打)の2人しかいないが、年間200打席以上というくくりで見ると、20人以上が引っかかってくる。なかには、ジャッキー・ブラッドリーJr.(ブルワーズ/.163)、コーディ・ベリンジャー(ドジャース/.165)、ポール・デヨング(カーディナルス/.197)といったビッグネームも混じっている。

 ベリンジャーは、2019年にナ・リーグのMVPに輝いた選手だ。デヨングは、デビューした17年に.285、25本塁打の成績をあげ、新人王投票で2位につけた実績がある。

 ブラッドリーも16年にはオールスターに選ばれ、シーズン全体で.267、26本塁打という数字を残している。今季は外野ならどこでも守れるという位置づけだったが、本塁打は6本止まりだった。守備が巧い、死球を得る術を知っている(10死球以上のシーズンが通算4度もある)という特技だけで、果たして生き延びられるのか。

歯止めのかからない低打率傾向

 それよりも気にかかるのは、フライボール革命の副反応ともいうべき、この「低打率現象」がいつまで続くのか、という問題だ。

 2021年のMLB平均打率は.244だった(1969年以降では最低打率)。

 20年前の2001年(イチローがMLBにデビューした年)は、MLB全体の平均打率が.264だった。規定打席数に到達した3割打者は、両リーグ合わせて46人いた。一方、規定打席数に到達しながら打率が2割以下の選手はひとりもいなかった。

 2つの年を比較してみると、本塁打数は、5458本(01年)から5944本(21年)に増えた。四球の数は、15806個(01年)から15794個(21年)に減った。三振数は、32404(01年)から42145(21年)に激増した。

 この傾向には、さらに拍車がかかるのだろうか。それとも、なんらかの軌道修正が加えられて、トレンドに変化が生じるのだろうか。ホームランの快楽を生々しく伝えてくれた大谷翔平の来季以降を見守りつつ、MLB全体の行方にも注目を怠らないでおきたい。

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