進取の将棋BACK NUMBER
「藤井聡太三冠の《終盤の構想力》に驚いた」「逆転勝ちできるのは豊島将之竜王だけかも」 中村太地七段が2人のスゴさを丁寧に解説
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph by日本将棋連盟
posted2021/10/08 06:00
叡王戦第5局の藤井聡太三冠と豊島将之竜王。竜王戦で三たび相まみえる
以下、9七桂を指した後の盤面の進み方です。
「▽3六歩→▲8五桂→▽3七歩成→▲6二金→▽同玉→▲4四角→▽7二玉→▲6一銀」
(※▽は豊島竜王、▲は藤井三冠)
このように進んだのですが……藤井三冠が一番理想とする、思い描いていた順序で豊島竜王を仕留め切った。その構想を最終盤で実現してしまうところに凄みを感じたのです。
先ほど「9七桂に対して5六歩」と打つ手を挙げましたが、実際に対局者(豊島竜王)の立場に立たされたら、その手の効果がわかりづらく、なおかつ1分将棋(※1分以内に1手指さなければいけない状態)の中で選択するには非常に難易度が高いものです。
その中で藤井三冠は全体の状況を見て「大きく、なおかつ無理のない構想」を描いた印象です。終盤も強い豊島竜王が「3六歩」としたのは自然な手で……そこからは吸い寄せられたように、藤井三冠の構想通り進んだという印象を持ちました。
そもそも、将棋の「構想力」ってどういうこと?
「構想力」というのは、攻めの組み立てなど序盤・中盤に重要視される印象があるが――そうお感じの将棋ファンはとても多いでしょうし、正しい認識です。ただ今回の「9七桂」は明らかに藤井三冠の「終盤での構想力」が発揮されたものと感じています。
「駒がこのような形で配置されていたら、自分の思い描く将棋が実現できる」
それを脳内でイメージしていく作業が、将棋における「構想」と私自身は考えています。例えば詰将棋(※王手の連続で相手玉を詰めるパズル。終盤力を磨く教科書ともされる)を考える時に出てくるものでもあります。
構想しているとき、脳内はどんな感じなのか
その際、脳内でどんなイメージを描いているのか。難しい詰将棋に臨んでいる時の状態を言語化すると、駒の配置を見て――しらみつぶしに手を考えているだけではありません。
「なんとなくこういう形で詰みそうだな」
「この駒をこう捌いたらよさそうだな」
「あの玉をこちら側に持っていきそうだな」
そういう風に考えたりすることもあるんですね。
それを踏まえて、藤井三冠の対局に話を戻すと……。