甲子園の風BACK NUMBER
「いいキャプテンがいる時は結果が出る」ドラフト候補・前川右京ではなく、主将・山下陽輔が智弁学園の「4番」に座り続けた理由
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/09/29 17:06
今世代で最も多くの公式戦を勝ち抜いてきた智弁学園。そのチームをけん引したのが主将・山下陽輔だった
昨秋の県大会の初戦直前に練習中に自打球が左足首に直撃した。打撲と診断され「ケガをした自分が練習の中にいたらチームの士気が下がる」と、敢えて練習を休み、グラウンドにも顔を出さなかった。すると、小坂将商監督の逆鱗に触れたのだ。
「何も練習に出なくても、グラウンドの後ろで見ているだけでいいんですよ。なのに練習にすら来ないって。あの時はものすごく怒りましたね。“キャプテンなんかやめてまえ!”って」
小坂監督は当時をこう振り返るが、もちろん本心ではない。
「しっかりしていますよね。どんな状況でも冷静ですし、慌てない。周りをしっかり見られるんです」
小坂監督も智弁学園での現役時代は4番でキャプテンだった。だが、「自分とは比にならないくらい山下の方が人間性は上」と話す。
とはいえ、当の山下は戸惑いだらけの“船出”だった。だが、井元康勝部長に言われた、ある一言をきっかけに我に返った。
「“やるかやらないか迷った時、やっていいなと思ったことはどんどんやっていけ”と言われたんです。それから自分で少しでもいいと思ったことはどんどんやるようにしました。失敗は多かったですが、重ねていくうちにそれが慣れみたいになって、できないことが分かるとやれることがはっきりしてきて。キャプテンをやっていると、やれないことの方が多いことが分かりました。例えば、ポジションで言うと外野のことは自分には分からないので、(副主将の前川)右京に任せきりでした」
前川は練習に真摯に取り組む真面目さだけでなく、1年夏から注目されてきても全く驕りを感じさせない。そんな頼れるチームメイトである副主将にも可能な範囲のことを委ねるようにした。
山下が大事にした「ミーティング」
そして、山下がキャプテンとしてこだわったのがミーティングの内容だ。練習の前後に行うミーティングを含め、普段からチーム全員が発言できるように促してきたのだ。
「1年生は何をすればいいのか分からないだろうし、ミーティングの場では消極的になりがちですが、(こちらから指名すると)自分たちが気づけない、いいことを言ってくれることもあります。発言できるようになれば練習前、練習後と何が良かったかを自分で考えられるようになるんです」
下級生の成長も期待しながら、全員が発言できる雰囲気を作る。それがチーム力の向上に繋がっていったのだ。