将棋PRESSBACK NUMBER
藤井聡太12歳と対局した豊島将之が「小学6年の自分より強い」 師匠・杉本昌隆がつないだ《不毛の地》名古屋・愛知の将棋史
posted2021/09/30 11:07
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
日本将棋連盟
2017年8月、豊島八段と藤井四段は棋王戦で対戦した。両者の公式戦での初対局は、豊島が勝った。その後、両者は2019年に銀河戦、竜王戦、王将戦、2020年に将棋日本シリーズ、王将戦で対戦し、いずれも豊島が勝った。
豊島が通算勝率8割台の藤井に6連勝したので、メディアは藤井の「天敵」と呼んだ。ただ私は、3年間に6局だけの対戦成績で、そのように見るのは早計だと思った。実は、次のようなケースがあったからだ。
加藤一二三も中原誠になかなか勝てなかったが
1968年から1976年までの8年間、「神武以来の天才」と称された加藤一二三・九段は、「将棋界の若き太陽」と称された中原誠名人に、公式戦で1勝21敗と大きく負け越した。大棋士同士の対戦で、ありえない数字である。
これだけ痛めつけられると、「サメ」に対する「イワシ」の関係がずっと続きそうだ。
しかし、加藤はめげなかった。中原の将棋を詳しく調べると、自信を持って戦えるようになったという。やがて苦手意識を払拭して互角に渡り合い、タイトル戦で中原を打倒した。
藤井が豊島になかなか勝てなかった理由のひとつに、以前に抱いた尊敬の念があったようだ。
2014年、研究会での「豊島-藤井」
2014年12月。藤井の師匠の杉本昌隆七段は、研究会で豊島七段と将棋を指した。
終局すると弟子の藤井初段を呼び、豊島に指してもらった。順当に勝った豊島は「小学6年でこれだけ指せたら、自分のときと比べて圧倒的に強い」と評した。一方の藤井は「終盤に本気を出されて負かされました」と後年に語った。
それから2年半後の2017年5月7日。愛知県岡崎市で開催された恒例の将棋イベントに、公式戦でデビューから負けなしで16連勝していた藤井四段が登場した。藤井の人気はかなり高く、会場の岡崎城に多くの将棋ファンが詰めかけた。