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藤井聡太12歳と対局した豊島将之が「小学6年の自分より強い」 師匠・杉本昌隆がつないだ《不毛の地》名古屋・愛知の将棋史
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by日本将棋連盟
posted2021/09/30 11:07
王位戦、叡王戦に続き竜王戦でも激突する豊島将之竜王と藤井聡太三冠。2人に縁深い愛知県の将棋史について紹介する
能楽堂での公開対局では豊島八段と藤井が対戦し、激闘の末に豊島が勝った。藤井は「A級棋士の力というものを感じました」と語った。
2人の共通点は“あの武将”にあり?
藤井王位に豊島竜王が挑戦した今年7月の王位戦七番勝負第2局は、両者の対戦成績(その時点で藤井の1勝7敗)が一転した節目の勝負となった。
藤井はずっと不利な形勢だったが、終盤の土壇場で豊島の疑問手に乗じ、驚異の終盤力を発揮して逆転勝ちした。勝ちを逃した豊島は終局後、茫然とした様子になったという。
その後、藤井は王位戦で4勝1敗として初防衛を果たした。豊島叡王に挑戦した叡王戦五番勝負は、3勝2敗で破って叡王のタイトルを初獲得した。両者の対戦成績(9月末日時点)は、藤井の8勝9敗とほぼ互角。王位戦第2局以降は、藤井が7勝2敗と大きく勝ち越した。潮目は変わってきている。
豊島は1990年に愛知県一宮市で生まれた。5歳のときに父親の仕事の関係で大阪府に移住したが、正月とお盆には祖父母が住む実家で過ごすという。
一方の藤井は2002年に愛知県瀬戸市で生まれた。2016年12月に名古屋市で開催された四段昇段祝賀会では、「東海地区にタイトルを早く持ってこれるように精進したい」と挨拶した。
戦国時代には、愛知県で生まれた織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の英傑たちが天下に君臨した。
豊島はあるインタビューで、「タイムマシンに乗れたら、戦国時代に行って織田信長に会いたい」、藤井もある対談で、「チャレンジ精神がある織田信長が好き。自分も常識にとらわれない将棋を指したい」と語った。豊島と藤井が好きな武将は、織田信長で一致しているのだ。
板谷四郎九段いわく名古屋は「不毛の地」だった
そんな2人と縁が深い、愛知県棋界の歴史と出身棋士などを紹介する。
愛知県棋界に最初に根を下ろした棋士は、板谷四郎九段だった。
板谷は1940(昭和15)年、木村義雄名人の門下で関東の奨励会(棋士養成機関)に入った。時に26歳。妻子がいる身で生活は苦しかった。親子もろとも心中する覚悟で必死に戦い、翌年に四段に昇段して棋士になった。