濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
那須川天心はなぜキック残り3戦のRISEで“ボクシング仕様の闘い”を見せたのか? 判定勝ちへのファンの不満には「賛否あっていい」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2021/09/28 17:05
9月23日のRISEでは、キックボクシング残り3試合となった那須川天心が鈴木真彦に判定勝ちを収めた
まずは敵の持ち味を殺し、主導権を握る。それが勝負の大前提だ。6年前の試合では鈴木がどんどん前に出て攻撃を出してきたから打ち返しやすくKOにつながったが、今回は研究されているのが分かったと那須川。
そんな中でも、那須川は「全部ゆっくりだった感じがします。全部見えたというか。相手がやりたいことが分かったから噛み合わなかったのかな」と言う。
相手は自分を研究している。雑な攻めは禁物だ。ただ相手のやりたいことは分かるし、動きも見える。だから様々な攻撃を試すこともできた。
「右手をたくさん使って、いろんな角度から打って組み立てました。どの場所でどういう角度で打つか。あとは当てた時のバランス。当てて戻る時のバランスは未完成でした」
相手が出てこないのなら自分から切り崩す。考えながら攻める。それを明確に言葉で説明できる。そこに那須川の凄さがあるのだが、本人にとっては満足できない部分でもあるらしい。意識してやるのではなく、自然に体が動くレベルにもっていかなければ、と。
パンチの練習が増えて“ボクシング仕様”になっていた
序盤の左ハイキックなど効果的な蹴りもあったのだが、攻撃がパンチに偏りすぎたという反省も口にしていた。那須川は来年、キックボクシングのキャリアを終えてボクシングに転向する。先を見据えてということだろう、ボクシングの練習を増やしたそうだ。結果、試合で出る蹴りが少なくなった。出ても多くは単発だ。パンチから蹴り、蹴りからパンチというコンビネーションが少ない。
ボクシングの練習を増やしたといっても、キックボクシングの練習を減らしたわけではないそうだ。これまで通りの練習に加えて、ボクシングにさらに打ち込んだ。ただその練習内容は、キックボクシングでの理想のバランスには向いていなかった。極端に言えば“ボクシング仕様”になっていたということか。それはそれで、やってみて初めて分かったことだ。
那須川ほどの選手でさえ、練習量のバランスが試合に影響してしまうということだ。いや那須川だからこそ、かもしれない。以前、右フックでKO勝ちした試合で、その技にこだわっていたかと聞かれた那須川はこう答えている。
「練習でこだわってました。練習したことが出たというか、出るまで練習したんですよ。“そりゃ出るよな”って」
練習あってこその那須川天心。単にセンスで闘っているのではないし“気合い一発”、“勢いで押し切る”タイプの選手だったら45連勝などできるはずがない。那須川が所属するTEPPEN GYMに他ジムの選手が出稽古に来ると「みんな驚く」そうだ。「こんなに頭使って練習したことないって、みんな言いますね」と那須川。