濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
那須川天心はなぜキック残り3戦のRISEで“ボクシング仕様の闘い”を見せたのか? 判定勝ちへのファンの不満には「賛否あっていい」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2021/09/28 17:05
9月23日のRISEでは、キックボクシング残り3試合となった那須川天心が鈴木真彦に判定勝ちを収めた
判定での勝利に「賛否あっていい」
今回は相手の光を消し、コントロールしての判定勝利。手応えも反省もあった。KOを期待したファンもいたはずだが、そこは「賛否あっていい」と言う。評価は見るものに委ねている。
自分には自分のやりたいことがあり、試合にはやりたくてもできなかったことが出て当然でもある。「倒せなくてすいません」とか「ファンのみなさんが望むような試合にならなかった」とは言わないのだ。
「今回、自分のテーマは丁寧に闘うことでした。会見では熱い感じを出しましたけど、試合中に感情を出すといい結果にならない。丁寧に、確実に勝つと決めてました」
現時点での那須川の最後のKO勝利は、昨年11月の裕樹戦だ。そこから大晦日、2月、6月とKOなし。「そろそろ倒したい」とか「みんなKOを見たがってるだろうな」、「倒して勝たないといろいろ言われるかな」といった気持ちにはならないのだろうか。
「KOしたいという気持ちはありますよ。でも欲を出しすぎると呑まれてしまうので。(鈴木は)そこまで油断できる相手じゃなかった」
相手をノックアウトする快感にも、ファンの期待に応えたいという誘惑にも動じることがない。言い方は変だが、堂々と判定勝ちできてしまうところも那須川の強さなのだろう。
“神童”は、格闘技のリアリズムの中で生きている
実力差はあった。しかし油断はできなかった。2つの状態の間にある微妙なギャップの中に、那須川天心の格闘技、その本質がある。以前は勢いに乗り、焦って攻め込んで失敗したこともあるそうだ。今回は試合が噛み合わず「ムズいっすね」。那須川にとっても格闘技は難しいものなのか。そう思うと少し安心した気にもなる。
「キックボクシングは残り2試合。次はもっと蹴り込んで臨みたい」
あと2戦したら、那須川はボクシングに行く。けれどその2戦をおろそかにするつもりはない。最後まで試行錯誤を続ける。キックボクサーとしての強さの追求をやめていないからだ。次の試合でも課題が見つかれば、それはキックボクシング最終戦で修正してくるだろう。
鈴木戦は噛み合わない試合だった。だがそのことで、45連勝が必然であることも分かった。もしかすると“倒せない(倒さない)那須川天心”に不満を持つファンもいるかもしれない。それは本人が言うように、否定すべきことではない。しかし「ムズい」試合を経て、那須川がまた強くなるだろうとは言っておきたい。“神童”と呼ばれた男は、実は格闘技のリアリズムの中で生きている。那須川天心の試合は面白い。今回はそれ以上に、那須川天心の試合について考えることが面白かった。
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