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最強の“場違い男”が誕生! 那須川会長の愛弟子・風音が「なんでお前が出るねん?」から下克上優勝するまで
posted2021/09/29 17:05
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Susumu Nagao
「涙って勝手に出てくるんや」
9月中旬、TEAM TEPPENの那須川弘幸会長が持つミットで追い込まれているときのことだ。心の中で「世の中にこんなきついことがあるのか」と弱気になっていると、汗とは違う熱い水分が頬を伝ってきた。
生まれて22年、京都から上京して3年目に突入したというのに関西弁が抜けない風音は辛くて自然発生する涙を初めて味わった。そこまで自分を徹底的に追い込む那須川会長やコーチを嫌いになりかけたこともある。
「正直にいうと、朝起きたときに『ああ、今日も練習か』とボヤくことは何度もありました」
気持ちは揺れ動いたが、練習に背を向けようとは思わなかった。「俺は、いま人生を変えることができるトーナメントに出ている」ということだけは自覚していたからだ。
「追い込んでもらえればもらうほど、強くなれる」
歯を食いしばるしかなかった。
「ここで耐えないと、俺は絶対勝てへん。踏ん張りどきや」
「優勝したら国内最強」実力者が揃ったトーナメントで…
舞台は今年7月に大阪で開幕し、9月23日の横浜大会で準決勝と決勝を迎えた『RISE DEAD OR ALIVE 2021 -53 kgトーナメント』。メンバーは那須川天心との二度に渡る激闘で名を売り大本命となった志朗、実弟・孔稀とともに無敗の快進撃を続けていた“優しい怪物”大崎一貴、“西の神童”と呼ばれアグレッシブなファイトを得意とする石井一成。出場者が決定した時点で、「このトーナメントで優勝すれば、-53kgでは国内最強を名乗ってもいい」と断言してもいいほどタレントが揃っていた。
当初風音は、のちにRIZINで那須川天心とボクシングルールで闘い話題となる大崎孔稀と5月16日にトーナメント本戦出場をかけて闘う予定だった。つまり最初から本戦のメンバーに選ばれていたわけではなかった。
しかし、孔稀が新型コロナウイルスに感染してしまったので、風音は不戦勝扱いで出場切符を手にする。「運も実力のうち」とはよく言ったものだが、他の7名はチャンピオンベルトを保持、あるいは保持者だった者ばかり。その中で風音だけが無冠だった。