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那須川天心はなぜキック残り3戦のRISEで“ボクシング仕様の闘い”を見せたのか? 判定勝ちへのファンの不満には「賛否あっていい」
posted2021/09/28 17:05
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Susumu Nagao
那須川天心といえども、うまくいかないことはある。
9月23日、ホームリングRISEのビッグマッチである横浜・ぴあアリーナMM大会。試合後のインタビュースペースで、那須川は鈴木真彦戦を「ムズいっすね」と振り返った。プロキャリア45戦45勝。あらゆる相手に勝って、この鈴木戦も6年前のリマッチだ。鈴木にとっては、那須川へのリベンジは人生最大の目標だった。意地も執念も並大抵ではなかったはずである。
しかしその意地や執念を、那須川ははね返す。大会前日の記者会見で、鈴木の思いをどう受け止めるかと聞かれた那須川は「受け止めることはできない」と答えている。
「勝手にぶつけてくれれば、はね返すよと」
鈴木は6月のRIZIN東京ドーム大会でも那須川戦のオファーがあったのだが「プライベートな事情」で断っている。那須川は記者会見で「僕には試合以上に大事なものはない」と語り、鈴木への怒りを感じさせた。KOで勝つことを「めちゃめちゃ意識する」とも。
だが結果として、試合は判定で終わった。3-0で那須川の勝利。強打の鈴木が、その持ち味を出しきれなかった。
那須川のテーマは「相手の光を消す闘い」だった
もっと攻めたかったが攻めることができなかった、右ストレートから左フックにまでつなげたかったが、出なかった。そうさせなかった那須川の強さとうまさを感じた。鈴木は試合後にそう語っている。ともあれ念願の再戦にこぎつけ、フルラウンド闘ってスッキリした部分もあるのではないかと聞かれても「スッキリはしてないです。勝ちたかったので」。
逆に那須川はこの試合で「相手の光を消す闘い」をしたと語っている。だから鈴木は「スッキリ」できなかったのだ。力でねじ伏せられたのならスッキリしたかもしれないが、力を出させてもらえなかった。それが那須川のうまさだった。
戦前のコメントからは、激しい打ち合いも予想できた。力の差をはっきり見せつけてやるという那須川の強烈な意志を感じたのだ。だが試合が始まると、彼はねじ伏せるのではなく光を消す闘いをした。