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「37歳、40歳でも今がベストだと」 国枝慎吾、“2019年グランドスラム未勝利”から復活できた理由〈2大会ぶり金メダル〉
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byNaoya Sanuki
posted2021/09/05 17:01
パラリンピックで2大会ぶり金メダルを獲得した国枝慎吾
「ずいぶん手応えを感じて全豪に」
フェルナンデスなど、国枝以降に頭角をあらわした選手はおしなべて強打の持ち主だ。もともと国枝は自分でラリーを支配するタイプだが、ショットに威力のある若手はそれを許してくれず、逆に相手に支配されるポイントが増えた。
国枝はショットの組み立てやメンタルも含めた総合力で対抗したが、「かわしながら」勝っているという思いが強くなったのだろう。ラリーで受け身に回る展開も増えたことから、より「力強いインパクト」を求める気持ちが芽生えたのだ。
国枝はこの2月で36歳になった。そのベテランが、グリップ(握り方)もテークバックも、すべて見直したというのだから恐れ入る。求道者国枝ならではのチャレンジだ。
そうして迎えた2020年は、シーズン開幕戦で優勝、万全の状態でグランドスラムの全豪を迎えた。
「ずいぶん手応えを感じて全豪に入ることができた。あとはグランドスラムの緊張感との戦いだとか、特別に意識してしまう自分自身との戦いというところだった」
意識過剰を乗り越えた発想の転換
次なる敵は自分自身の意識過剰だった。その「戦い」を国枝が振り返る。
「とにかくリラックスしようと臨んだ。ひとつ下のグレードで勝てて、なんでグランドスラムで勝てないのか。まあ、ちょっと意識しすぎていたのかと思う。(昨秋の)楽天オープンから、試合前にコーヒーでも飲もうか、少しリラックスしてコートに入ろうか、というルーティンを始めた。緊張からリラックスさせる方に持っていった。対戦相手のこととかもそれほど分析せず、考えすぎず。そこがキーだったかな」
この修正力、大胆な発想の転換もさすが国枝だ。人一倍、勝利にどん欲な選手が、勝つために、一度その思いに蓋をしたのだ。
国枝は準決勝でヒューエットを、決勝ではリードを破り、全豪では2年ぶり10度目となる優勝を飾る。四大大会では'18年全仏以来、通算23度目の優勝となった。
パラリンピック・イヤーは最高のスタートになった。定位置だったランキング1位の座もすでに取り戻している。このままなら、8月末に開幕するパラリンピックでも本命となる。