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18歳に逆転負け…2連覇を目指す女王・大坂なおみに何があったのか?「しばらくテニスから離れて休もうと思う」
posted2021/09/05 17:03
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Hiromasa Mano
夏を戦う大坂なおみの相棒は、今まで見たことのないような柔らかく女性らしいイメージのラケットだった。大坂が以前からファンで交流もあったという現代アーティスト・村上隆氏とのコラボレーションから生まれたもので、彼の代表的なモチーフである桜がフレーム全体にあしらわれたデザインだった。新しいギアを手にした大坂は、「本当にハッピー。尊敬する村上氏とコラボできるなんて夢のよう。実現してくれたヨネックスにも感謝」とSNSで綴っていたものだ。
その愛らしいラケットを2度もコートに叩きつけてしまった。連覇のかかった全米オープンは自らの心を整えるようにして臨んだはずの大会だった。大会前の記者会見で、全仏オープン直前から自身がとった行動について「多くの間違ったことをしたと感じている」と振り返り、その翌日にはSNSで今の心境を吐露した。以下はその抜粋だ。
「私のことを謙虚だと言う人がいるけれど、私はいつも自分を卑下しているのだと思う。これからはもっと自分や自分がやり遂げたことを認めよう。自分の価値は他人のものさしで決めるべきじゃない。精一杯やって、それが誰かにとって十分じゃなくても謝る必要なんてない。世界で今起こっていることを思えば、朝起きられること、それだけで幸せなんだ」
— NaomiOsaka大坂なおみ (@naomiosaka) August 29, 2021
流れが変わった“タイブレーク”
はっとするような強さで1回戦を勝ち、2回戦は対戦相手の棄権により不戦勝を得た。そして迎えた2度目のアーサー・アッシュ・スタジアムでのナイトマッチだった。
ネットの向こうには世界ランク73位のレイラ・アニー・フェルナンデス(カナダ)。2日後が19歳の誕生日という若手で、今年3月にツアー初優勝を果たした成長株だ。大坂は第2セットで勝利目前まで迫っていた。第1セットを5-5からブレークして7-5で奪い、第2セットもまったく同様の展開。第1セットと同じように、6-5からあとは自身のサービスゲームをキープすればいいだけだった。スコアこそ競っていたが、サービスゲームはまったく危なげなかったのだ。
ところがこのサービング・フォー・ザ・マッチで不意にアンフォーストエラーを重ねてブレークバックを許すと、タイブレークはスタートから5ポイントを連続で奪われる。ラケットに八つ当たりしたのは4ポイント目、そして5ポイント目のあとだ。
「本当に申し訳なく思っている。自分でもどうしてなのかよくわからない。落ち着けと自分に言い聞かせていたけれど、多分、我慢が限界に達してしまった」
タイブレークはあっさり失った。トイレットブレークをとり、白いタオルをベールのようにかぶってコートに戻って来た大坂。過去のパターンからそれは心のリセットの合図のようにも見えたが、この日は違った。