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「37歳、40歳でも今がベストだと」 国枝慎吾、“2019年グランドスラム未勝利”から復活できた理由〈2大会ぶり金メダル〉
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byNaoya Sanuki
posted2021/09/05 17:01
パラリンピックで2大会ぶり金メダルを獲得した国枝慎吾
全米1回戦敗退当時の状態は……。
昨年の全米で、国枝は1回戦でヒューエットに敗れた。
ヒューエットは前年優勝者だったが、常勝国枝には珍しい初戦敗退だった。そのストレート負けには、少し前から取り組んだバックハンドの改良が影響していた。国枝は「調子を上げきることができず、苦しかった。(改造中の)バックハンドはまだ完全にしみこんではいない」と苦い敗戦を振り返った。
ただ、その翌週には、グランドスラムのひとつ下のグレードのUSTA車いす選手権でフェルナンデスらを圧倒、優勝している。
「全米はどん底、見たことないっていうくらい調子が悪く、翌週はこんな彼を見たことがないというくらい調子が良かった」
これは'18年から国枝を見る岩見亮コーチの証言。先をにらんでのバックハンド改良だったが、コーチが「日替わり、週替わり」と評するほど、この時点ではショットの出来にムラがあったのだ。
もやもやを解消したオフの練習
肝心の四大大会で勝てないことで、国枝には珍しく、精神面に迷いが生じた。全米の1回戦敗退のあとには「普段の大会の方がリラックスしている。どういう心境で臨むべきなのか、難しい」と話した。これまではグランドスラムタイトルへの強い思いを前面に出して戦ったが、もう少しリラックスして臨むべきなのか、マインドセットの仕方自体が揺らいでいた。
そうしたもやもやを、国枝はオフシーズンの練習で解消していった。
技術的には、昨夏からのバックハンドの改良を一歩進め、「インパクトの力強さ」を求めた。回転量の多いトップスピンからフラット系の(回転量の多くない)ショットに変えて攻撃力を高め、さらに「相手に時間を与えないテニスを構築」した。フォアハンドも同様にインパクトの強さを求めて改良した。その意図を国枝が明かした。
「去年までは自分が押される展開が多く、それをかわしながら勝っていたところがあった。それを、がっちり主導権を握ってというテニスに変えていった」