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愛馬の「突然の死」を乗り越えた馬場馬術・黒木茜が、東京オリンピックへの挑戦を諦めた理由「一番大切なのは…」 

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カジリョウスケ

カジリョウスケRyosuke Kaji

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photograph byJRA/Ryosuke KAJI

posted2021/08/23 17:00

愛馬の「突然の死」を乗り越えた馬場馬術・黒木茜が、東京オリンピックへの挑戦を諦めた理由「一番大切なのは…」<Number Web> photograph by JRA/Ryosuke KAJI

愛馬ジジにキスをする、リオデジャネイロオリンピックの馬場馬術日本代表の黒木茜

 競技会初日、茜はジジの肢もとの状態を感じ取りながら準備運動を進めた。ミスがあったが、結果は67.652%で6位入賞。翌日の自由演技にも進み、72.450%の自己ベストが出た。この調子であれば代表選考会でも十分勝ち進む可能性のある得点率だ。しかし茜は感じていた。

「やっぱりいつもの状態とは違う」

亡き愛馬が教えてくれた“一番大切なもの”

 茜は悩んだ。選考会に出場すれば十分に勝負ができる。東京オリンピックがすぐ手の届くところにある状態。選手としては無理をしてでも出たい。これまで多くの時間やお金を費やして全てをかけて取り組んできたのだから。ベンジャミンは今のジジの状態であれば特に問題はないと言ってくれている。茜が自国開催である東京オリンピックを大きな目標としていたことはトレーナーのベンジャミンもよく理解し、背中を押してくれた。だが、選考会を勝ち抜いたとして、東京への輸送、そして過酷な夏の暑さに、ジジは耐えられるだろうか? 体力があるとはいえ、ジジはすでに17歳。調子の良かった昨年とは違って年齢も気になってくる。

 茜の心の中には、常にトゥッツがいた。

「アジア大会の前から不調を訴えていたトゥッツ。それなのに見て見ぬふりをして暑いジャカルタへ輸送してしまった。今回もジジの肢もとの違和感がどうしても拭いきれない。トゥッツのときと同じでは? トゥッツが命をかけて教えてくれたことを忘れてはいけない。ジジにトゥッツのような思いをさせてはいけないし、二度と同じ思いはしたくない」

 茜は東京オリンピックを諦めた。この挑戦は馬を苦しめてしまうかもしれない。それは結果的に自分自身を苦しめてしまう。たとえ成績がついてきたとしても、目指してきたものはそこにはない。それは茜の経験と後悔が導き出した苦渋の決断だった。ベンジャミンも茜の決断に理解を示し、「私たちの理念をとてもよく理解してくれて嬉しい。馬のことを第一に考えられる茜でよかった」と寄り添ってくれた。

「ジジには1日でも長く相棒でいてもらいたい。私に乗られることに対してハッピーでいてもらいたい。相棒でよかったと思ってもらいたい。東京オリンピックという一番大きな夢を私は諦めることができた。これだけの決断ができたのだから、これからの馬術人生においても馬にとってベストな選択ができる選手であれると信じている」

 茜が一番大切にしたかったもの、それはパートナーである馬との幸せだった。

 

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