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“苦難と失意の連続”から日本女子バスケが史上最強に… 「東京五輪で金メダルを」宣言が一笑に付されたアメリカ人指揮官の哲学とは
text by
三上太Futoshi Mikami
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2021/08/08 06:00
フランスを下し銀メダル以上を確定させた日本女子バスケ代表
一笑に付された「東京五輪で金メダルを取る」
彼は日本リーグで活躍し、その後、わずか2試合ではあるが、NBAでもプレーしている。現役引退後はアメリカの一般企業に就職するものの、2010年、JX(現ENEOS)サンフラワーズからオファーがあり、日本女子バスケット界のコーチへと転身。彼の指示が日本語であるのは、日本リーグでプレーしていたことと、彼の妻が日本人であることに由来している。
ホーバスはヘッドコーチ就任と同時に「東京オリンピックでは金メダルを獲る。決勝戦は(彼の母国でもある)アメリカと対戦し、日本が勝つ」と豪語していた。むろん記者会見でそれを聞いた多くの記者は一笑に付したが、彼は本気だった。
「渡嘉敷や大崎(佑圭。現役引退後、東京オリンピックのために復帰。しかし大会が延期となり、改めて引退したセンタープレーヤー)に『このメンバーならメダルを獲れるよ』と言っていたんだ。チャンスはあるよ」
2011年に女子日本代表のアシスタントコーチを務め、そこで日本がこれまで積み上げてきた戦い方を知り、その上に彼のエッセンスを加える。そうすれば必ずメダルが獲れると信じていたのである。
林、宮澤、町田らは実力を地道に磨いてきた
大言壮語ではない。象徴の1つは、FIBA(国際バスケットボール連盟)が発表する世界ランキングで現在2位のオーストラリアとの対戦成績だ。2018年のワールドカップでもアメリカに次ぐ2位となった強国だが、アジア地区に組み込まれた2017年以降、日本は重要なゲームでオーストラリアに負けていない。敗れたのは2017年のアジアカップ・予選ラウンドだけである。
一方で、2018年にスペインで行われたワールドカップでは、予選ラウンドを3位で通過しながら、準々決勝に進む「セミクウォーターファイナル」で中国に敗れ、9位に終わるなど、辛酸もなめてきた。
それでもホーバスの「東京オリンピックで金メダルを獲得する」という信念が変わることはなかった。むしろそのための選手を育て続けてきた。それが東京オリンピック2020で活躍を続けているシューターの林咲希であり、宮澤夕貴である。世界レベルで通用するポテンシャルを秘めながら、どこか自分自身を信じきれない赤穂ひまわりの才能を信じ、引き上げたのもホーバスである。
今大会でアシストのオリンピック記録を塗り替えている町田瑠唯もまた、ホーバスの下で地道に研鑽を積み重ねてきた。