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「やっぱり松坂大輔が1番」2人の甲子園球審が目撃した、“ダルビッシュ有、斎藤佑樹にもなかった”驚異の才能とは
text by
藤島大Dai Fujishima
photograph bySankei Shimbun
posted2021/08/18 17:01
今シーズン限りでの現役引退を表明している松坂大輔。23年前の夏の甲子園を大いに沸かせた
「何も目に入らないし声も聞こえてこない。集中してるんでしょうね。終わった後、暑いなあとは感じました。もし延長18回で引き分け再試合になったら、次の日、もういっぺん球審しなくてはあかん、やりますわ、というような意識だけはありましたけどね」
その岡本が、横浜-PLの松坂投手の「身体能力の高さ」はよく覚えていた。「いちばん」の根拠でもある。ストレートの威力といった領域にはとどまらない。捕手の真後ろで見ると守備でゴロをさばく身のこなしも際立っていた。
「身体が柔らかくて強い。変な体勢になりそうなバウンドでもバランスを少しも崩さずに処理する。あれは横浜高校の練習の成果なんですかね」
後年、松坂本人が、明かしている。「(当時の小倉清一郎部長に)アメリカンノックやペッパーを徹底してやらされました」(本誌734号)。前者は大きく左右に長駆するノック、後者は至近距離でのゴロ処理の反復である。
岡本は、松坂の投球では、こんな瞬間をよく覚えている。
「ストライクをホンマにとりたい時、軸足の動きというのかなあ、もうひとつ足首をぐっと入れてからボールをさらに伸ばしてくる。えっ、というような感覚にさせられるんです。彼なりの何かを持っているんでしょうね」
PLの猛攻も「松坂は楽しんで投げていたのと違うかな」
PLの鋭利な打撃もまた忘れられない。
「春の松坂は高校生ではまず打てないような気がしました。それをPLがガンガン打ってきたからね。大変なゲームになりそうや、とびっくりしましたわ。成長しとるなあと」
センバツの決勝でも球審を担った者の実感だった。その通りスコアボードの天秤は均衡を崩さない。17回の表、横浜の常盤良太がついに勝ち越し2点本塁打を放つと、最後は、松坂大輔がきれいに締めくくる。11奪三振。最高球速は148km。最終回にも147kmを記録している。4万3000観衆の視線の先に少年は屹立した。
岡本は、明治大学野球部で理屈を超越した島岡イズムに導かれ、時に鉄拳制裁の洗礼にもさらされた。峻厳な勝負を熟知するはずの人が少し意外な言い回しをした。