オリンピックへの道BACK NUMBER
転向を勧められても、高校総体に団体がなくても…「日本人には難しい」フェンシング団体エペで金メダル、“2つの原動力”とは
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTakuya Matsunaga/JMPA
posted2021/07/31 17:03
フェンシング男子団体エペで金メダルを獲得した日本代表。(左から)宇山賢、山田優、加納虹輝、見延和靖が成し遂げた偉業はあまりに大きかった
「夢じゃないことを祈っています」
チーム最年少の23歳ながら、常に試合の最後を任され、逆転劇を演じた加納は言う。
「まだちょっと信じられないです。夢じゃないことを祈っています」
フェンシング界誰もが夢見た世界一の栄冠は、意地と誇り、結束で生まれたものだった。
先に記した事情から、日本がエペで勝負するのは難しいと捉えられてきた。そのため、以前は「フルーレなら狙える」と日本はフルーレに注力していた。そして成果をあげてきた経緯がある。
だが最近、フルーレに寄っていた流れも変わってきた。オレクサンドル・ゴルバチュク(ウクライナ)が日本代表コーチに就任し、本格的な強化がスタートする。ゴルバチュクコーチは適性を見て山田を誘い、フルーレからエペに転向させるなど人材の確保と強化に努めた。
「個」の強さを感じさせる選手たちがまとまった
それが実り、個々の選手を見れば、かつてない成果を上げるようになっていった。最年長34歳の見延は、2016年リオデジャネイロ五輪に出場し6位入賞を果たしたほか、2018-2019シーズンには日本勢として初めて世界ランキング1位に輝いた。加納は2019年のワールドカップで優勝し、現在は世界ランキング4位の山田を筆頭に、国際大会で予選に出なくて済む16位以内に3人が名前を連ねる。十分、上位を目指せる選手がそろっていた。
ただ、団体戦はランキングなどでの出場枠を確保できず、開催国枠での出場だった。どうしても個人戦の代表争いが激しく、国際大会でも選手はそちらに注力しがちで団体戦で好成績を上げるのが難しかったという。
それでも、大会を前に結束した。
陸上競技短距離の選手たちがそうであるように取材の現場では「個」の強さを感じさせるフェンシングの彼らはまとまりを見せ、試合に臨んだ。