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「オリンピック番組にタレントは必要?」への賛否…民放プロデューサーは「日本が不振だと視聴率リスクがある」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJiji Press
posted2021/07/27 11:05
7月23日の東京五輪開会式。聖火の最終ランナーを務めた大坂なおみ
「今回のオリンピックばかりは、連日メダル獲得数の表を嬉々として出していいものか、悩んでいるところです」
メダルの数と、新規陽性者数。
ふたつの数字のバランスを制作者、記者はうかがいながら報道を続けている。
こうした状況になると、タレントは分が悪い。
タレントがもっとも力を発揮できる部分は、視聴者に「共感」を呼ぶことだ。タレントは盛り上げ、感動といったポジティブな感情の導火線となる。しかし、タレント本人も演出側も、今回ばかりはどのテンションが正解なのかが分からず、戸惑いながら放送を進行している様子がうかがえる。
ネガティブな材料が連続した開会式前、日本が抱えていた大きな問題は、オリンピック、スポーツ、アスリートの価値をIOC、日本政府、組織委員会、東京都が貶めていることだった。オリンピック開催までのトラブル、不作為が国民感情の「分断」の材料になってしまった。
こんなときに共感を呼ぼうとしても、限界はある。
今回のオリンピック報道は極めて繊細なもので、舵取りが難しい。
サンドウィッチマン富澤の破壊力
関係者が望んでいたのは、
「25日日曜日に阿部兄妹がそろって金メダルを獲得して、一気に沈滞ムードを吹っ飛ばしてくれること」
だった。
そしてそれは現実となり、それどころか競泳の大橋悠依、スケートボードの堀米雄斗のようなニュースターが誕生し、夜にはサッカーがメキシコを破り、卓球では水谷隼・伊藤美誠組が決勝進出を決めた。
ムードは変わりつつある。
その一方で、東京では新規陽性者数が日曜日としては過去最高となった。
危ういバランスは続く。
ただし、芸能人の起用がすべて裏目に出るわけではない。開会式直前に放送されたNHKの『東京2020オリンピック開会式直前SP』での、サンドウィッチマンの富澤たけしの破壊力は凄まじかった。
ネットでも話題になったが、聖火の最終点火者は「誰でしょうね?」というどうでもいい会話にぶちこんだのがこの言葉。
「やっぱり僕の中でひとつプランがあって、辞任、解任された人が勢ぞろいするんです。そして『どうなってんだ!』と。その炎上の炎が、こう行くんじゃないかと……」
快哉を叫びたくなった。
今回の空気を反映した見事な批評である。異論、反論、混沌、オリンピックをめぐる文脈が変化している今回のオリンピック報道で、サンドウィッチマンのアナーキーな姿勢が、清涼剤になるとは!