欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
崩壊寸前からの鮮烈な復活劇 スター不在で華麗さもなく、チャンスメイクも不得手なチェコはなぜEUROで躍進できたのか?
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/07/07 11:04
オランダを撃破しベスト8進出を果たしたチェコ。ハードワークを基調とした組織的な戦いで、サッカーの本質を見せつけた
今回のEUROではグループ3位で決勝トーナメントに進んだ。観衆を魅了する華麗なサッカーではないし、多くのチャンスを作り出せるわけでもない。
パス成功率は77.4%とかなり低い。チャンスメイクも、それほど得意ではない。だからこそのチームワークなのだ。イングランドのウェストハムで活躍する主力のトマーシュ・ソーチェクは「僕らは仲間のために汗をかけるチームだ」と胸を張る。
オランダを撃破した狡猾かつ勇敢な戦略
決勝トーナメント初戦のオランダ戦では勇敢な戦い方を選んだ。コンパクトで組織的な守備ブロックを自陣に敷き、特にオランダのキャプテン、ジョルジニオ・ワイナルドゥムと攻撃の中心フレンキー・デヨンクに執拗なマンマークをつける。そして、2人を完全に試合の流れから消し去ることに成功したのだ。
ADVERTISEMENT
ボールを奪えば、一気にギアを入れて相手陣内へと疾風怒濤のごとく攻め込んでいく。
52分にはドニエル・マレンに決定機を作られたが、ここはGKトマーシュ・バツリクが素晴らしいセービングで阻止。その直後、今度はオランダのDFマタイス・デリフトが足を滑らせた際に故意のハンドでボールを止めてしまう。これが決定機阻止と判定され一発レッドになる。その後、68分にMFトマーシュ・ホレシュ、80分にエースFWパトリック・シックがゴールを決めて2-0で勝利を挙げた。
勝負の行方を左右したのはデリフトの退場だ。それでも、それまでの展開でオランダがチェコの狡猾かつ勇敢な戦略にはまっていたのも事実だ。
シックの活躍に一番驚いているのは、所属するレバークーゼンのファンかもしれない。今季のブンデスリーガでは、悪くないが飛び抜けてもいなかった。スコットランド戦で45メートルのロングシュートを決めるなどあまりの別人ぶりに「おい、来季の補強でこの選手を獲得できたら最高じゃないか?」といったシニカルな冗談が飛び交っているほどだ。
シックは、自分たちのチームワークを絶賛している。
「今日のサッカーでは、誰がどれだけいい選手かということが試合を決定づけたりしない。オランダの選手たちは僕らよりもビッグクラブでプレーし、技術レベルも上かもしれない。それでも僕たちは今日、自分たちのチームスピリットを見せて、どんなプレーにも全力を出し切った。それこそが勝利のカギだ。僕らは今日、まさに獅子のように戦った」
デンマークとの準々決勝では、惜しくも1-2で敗れて4強進出はならなかったが、今大会のチェコは、サッカーがチームスポーツであることの本当の意味を、そしてサッカーというスポーツの美しさを、改めて教えてくれたのではないだろうか。