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フランス相手に世紀の大金星を挙げたスイスの英雄 小柄な守護神・ゾマーが“欧州屈指のGK”である理由
posted2021/07/02 17:02
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph by
Getty Images
今回のEUROで最大のセンセーションが起きた。
いや、過去の大会を振り返ってみても、ここまでドラマティックな展開はそうそうない。決勝トーナメント1回戦、スイスは2018年W杯王者フランス相手に、80分の段階で1-3と追い込まれていたのだ。そこから土壇場で追いつき、延長戦でも情熱的な戦いを披露し、さらにはPK戦の末に勝利を飾るなんて、誰が予想できただろうか。
PK戦前のスイス代表の円陣では、コーチ、監督、スタッフ、選手全員のエモーションが最高潮。試合に出ているかどうかなんて関係ない。チーム一丸となって、この千載一遇のチャンスをつかもうと燃え上がっていた。
何よりも印象的だったPKを止めた直後の所作
キャプテンのグラニト・ジャカが熱い檄を飛ばす。2点を決めたあと途中交代していたハリス・セフェロビッチが、5歳下のブレール・エンボロの頬を平手打ちするぐらいアドレナリンで溢れかえっていた。
そうした中、誰よりも冷静で、誰よりも集中していたのがGKヤン・ゾマーだったのではないだろうか。フランスもスイスも4人目のキッカーまで全員が見事にシュートを決め、最終キッカーへの重圧は高まっていた。
スイス5人目のアドミル・メーメディが落ち着いて決めたのに対し、フランス5人目のキリアン・ムバッペがゴール左を狙ったシュートをゾマーが鋭い動きでファインセーブ!
何よりも印象的だったのが、ムバッペのPKを止めた直後のゾマーの所作だ。ギリギリの緊張感の中、劇的勝利を決めるセーブをした直後なのに、すぐに喜ばず、ゴール横にいた審判に「シュートの瞬間までゴールラインに自分の足が残っていたかどうか」を確認するクールさを見せていたのだ。
前方への動き出しが早すぎたら、PKはやり直しになってしまう。だとしてもあの局面でそんな冷静な判断ができるとは。審判チェックの結果、問題なかったことを知らされると、そこで初めて大きなガッツポーズを見せた。