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崩壊寸前からの鮮烈な復活劇 スター不在で華麗さもなく、チャンスメイクも不得手なチェコはなぜEUROで躍進できたのか? 

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中野吉之伴

中野吉之伴Kichinosuke Nakano

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posted2021/07/07 11:04

崩壊寸前からの鮮烈な復活劇 スター不在で華麗さもなく、チャンスメイクも不得手なチェコはなぜEUROで躍進できたのか?<Number Web> photograph by Getty Images

オランダを撃破しベスト8進出を果たしたチェコ。ハードワークを基調とした組織的な戦いで、サッカーの本質を見せつけた

 守備アクションに移るまで、相手に許した平均パス本数を計測するPPDAというデータだ。スラビア・プラハは6.00で、これはヨーロッパトップランクの数値に相当する。ボールが相手に渡った際に、そこからパスを6本しか許さずにはめ込んでいるということだ。

 アグレッシブにボール保持者へ襲い掛かり、逃げのバックパスを誘発させ、そこに前線の選手がさらに追い込みをかけていく。

 そんなスラビア・プラハのスタイルが、チェコサッカー界に良い影響を及ぼしている。かつてカデラベクは「チェコだとボールを持ったら5秒は時間があった。ドイツでは1秒あるかないかで相手のプレッシャーを受ける」とレベル差を話していたが、チェコリーグのクオリティもだいぶ上がってきているという。

 ブレーメンU-23のコーチで、チェコスロバキア時代を知るミルコ・ボタバは次のように語っていた。

「チェコリーグは以前よりもお金が動くようになった。それに、一時期に比べてチェコの若手はチェコリーグでじっくり成長しようという気持ちが強くなっている気がする。もともとチェコの人は故郷を愛しているんだ」

「僕らは仲間のために汗をかけるチームだ」

 代表チームも再び躍動し始めた。

 2018年から指揮を執るヤロスラフ・シルハビー監督はスラビア・プラハから代表監督に転身。ハードワークとハイプレスを基調としたチーム作りを進めてきた。ちなみに、現役時代はハードすぎる守備が有名なDFとしてならし、それこそチェコリーグ史上最多レッドカード記録を持つ人物でもある。

 攻撃では複雑なプレーを好まない。できるだけ素早くシンプルに展開し、少ない手数でゴールを目指す。特に相手の両サイドの裏にできたスペースへパスを送り、そこへ選手が走りこむ動きが相当に鍛えられている。また、強固な守備を構築するのと同時に、空中戦の強さを活かしたセットプレーという強みもある。

 ベルギー代表のロベルト・マルティネス監督は、「非常にモダンなチームで、パワーとエネルギーが秘められている。彼らのゲームを見るのは楽しい」とコメントしていた。

 とはいえ、現在も煌めくようなスターはいない。

【次ページ】 オランダを撃破した狡猾かつ勇敢な戦略

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