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J3最下位→J2昇格→昨季前半戦首位→今季J2で18位…“活躍した選手を引き抜かれる”ギラヴァンツ小林伸二監督の苦悩と理想の筋道
text by
吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki
photograph byEijinho Yoshizaki
posted2021/06/30 17:00
ギラヴァンツ北九州を率いる小林伸二監督。昇格請負人とも称される名将は試行錯誤を繰り返している
J3降格を喫した2016年の苦い記憶
ギラヴァンツ北九州には、 2016年シーズンの苦い記憶がある。J2で今季と同じように序盤から低迷し、前年度7位からまさかの最下位に転落。降格を喫した。
その時とは違う点がある。2016年の時は、前々年、前年とカウンターで結果を残していたが、この年からポゼッションの要素を追加。しかしこれが上手く行かないとなると、シーズン途中でそれまでのスタイルに戻した。しかしもう、守備ラインには「相手攻撃を跳ね返す」存在はおらず、浮上は出来なかった。
しかし今は違う。進むしかない。迷うことはない。小林には考えがある。
「うちのフロントそしてクラブは、何で勝っているのか。このクラブは何者なのか。そこを明らかにしていくことです。どういうサッカーをする。どういう能力のある選手が必要なのか。長期的に伸ばすために若い選手が必要なのか」
なんでも出来るようなスーパーマンだったら、このクラブにはいらない、とも言う。
だからこそ、来たいと思われること。やりたいサッカーを示して、選手に来たいと思われること。弱点がある選手もストロングポイントを発揮できるように、戦術で勝つこと。そのための第一歩として、立ち位置(細かいポジショニング)から考えること。
確実に強いのは、鬼同士で力を合わせた時
元々ユース世代の監督志望だった小林は、その考えを「大人に言うのは失礼だが」と断りながらこう表現する。
「鬼ごっこの鬼を複数の人数でやった時、確実に強いのは、鬼同士で力を合わせた時ですよ。俺はこっちに行くから、おまえはこっちにいけ。囲んで捕まえようって。バラバラで捕まえるよりも確実に強いでしょう」
落ちて、上がって、また下る。じつはこの流れはこの3年間の出来事ではない。2016年に降格したところから始まっている「ボタンの掛け違い」だ。1ゴールを奪えず、試合終了間際に幾度も失点し、勝ち点を失い続けた。J3に行き、「リーグ史上最強チーム」の名に溺れ、ついぞ2018年には走れないチームになり最下位にまで落ちた。2019年から小林監督の下で復活したが、価値が急上昇した選手を留めるだけの資金がなかった。
強くなるしかない。そんな起伏が嫌なら、自らの力で強くなるしかない。その筋道だけは、小林によって記されている。
たとえ残りのシーズンが残留を目指す戦いになっても――現実に向き合うことが理想を叶える第一歩となる。