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J3最下位→J2昇格→昨季前半戦首位→今季J2で18位…“活躍した選手を引き抜かれる”ギラヴァンツ小林伸二監督の苦悩と理想の筋道
text by
吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki
photograph byEijinho Yoshizaki
posted2021/06/30 17:00
ギラヴァンツ北九州を率いる小林伸二監督。昇格請負人とも称される名将は試行錯誤を繰り返している
「(移籍を)止められないだろうな、という選手もいたけど、止められた選手もいたかなと思う。だけど、選手というのはここで残っても出場機会があまりないと考えたら、留まるよりもより出られる場所を選ぶものなのでしょうね。監督の役割があって、(兼任する)強化の役割があって、(選手個々人に)関わりきれなかったんですよね。他クラブの情報が色々と巡っていって。短い間にぐじゃぐじゃになって。選手には代理人がいて、またそこからも情報が入ってきて」
結果、小林はこういった決意をした。
「ある程度、新しいチームになるという覚悟をもってシーズンに臨みました」
繋がらないんですね。連動できない
しかし、“新しいチーム”は今のところ稼働していない。
6月27日時点の「総失点30」は、リーグ全体で4番目に悪い数字だ。この原因について小林は「繋がり」という言葉を使う。3月末の時点ではこう話していた。
「あるエリアではプレスがかかる。でもあるエリアでは上手くかからない。繋がらないんですね。連動していない。だから、スパッと奪えていたところで取り切れない時がある。結局そこから失点は始まっているんです」
直近のリーグ戦勝利は5月30日の町田ゼルビア戦でのもの。序盤のチャンスで先制すると、その後は劣勢に回り、ゴール前を固め、ロングボールを蹴った。前からのプレス、という戦いを仕掛けられない。試合後、小林は試合をこう解釈した。
「(今季これまで)こういった勝ち方はできていなかった点は良かった」
怖がらずに、相手の嫌がるところに
レギュラークラスが総入れ替えとなったFW陣もまた、機能しているとは言い難い。登録の6人合わせて20試合で6点。6月26日のジェフユナイテッド千葉戦では耐えつつも得た決定的なチャンスを、大卒1年目ながらに背番号9を背負う狩土名禅が決めきれなかった。
決定力不足。あまり書きたくない言葉だ。なぜならゴールを奪い、守ることはこのゲームの目的であり、勝てない原因ではない。
しかし小林には、これに対する考えがある。
「本当に決定力がある選手というのは日本人の数名と外国人なんですよ。だったら、自分たちがやるべきは『そういう(ゴールを生み出す可能性のある)機会を増やす』ということなんです」
攻撃でも「繋がること」が必要なのだという。そして選手の細かい「立ち位置(ポジション)」にこだわる。
「パスコースをたくさん作らないと、力が強い選手に負ける。3つあれば組織で勝てる。今季は状況に応じて少しだけ遠くを狙うことも伝えている」
もうひとつ、FWについてはこういった考えも持っている。
「怖がらずに、相手の嫌がるところにチャレンジしていく選手にしたい。『なんだ決めろよそれ』というのではなく、『また機会が来るから、準備しよう』と声をかけたい。そこの細かいところをビデオで見せたりして伝えていく。その積み重ねが試合の中で落ち着いて点を取ることに繋がると思うんですよね」
シュートシーンでいい形で「力が抜けていること」。これは躍進した昨季から繰り返し出てきた言葉だ。選手の方から。